犬人間の目覚め 後編

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 ぼくが警察につかまらないためには彼女を殺さなければならない。それは、はじめから分かっていたはず。  あの、なにかの声が聞こえた。いや、雨にぬれている彼女のワンピースを見てしまった時からそうなることは理解をしていたのに。  今回のおわりは、そこしかないと頭では。 「ぐっ、うう」  昨日の朝。彼女が風呂に入らせてほしいと願うまで目を逸らしていた。だからこそ。 「おい、まだ起きてるよな。まだ二日前なんだから、生きているよな?」  だからこそ、今。ぼくは彼女に暴力を振るっている。自分の思い通りに相手を支配するためなんかじゃない、その先にいくのに必要な儀式。  そうだ。これは必要なことなんだ。  ぼくが生きるためには、彼女を。  本人も言っていたように、彼女を家畜だと思え。そう考えなければ、先にはいけない。  もっと狂わないと、ぼくは。  今が朝なのか、昼なのか。外を歩いているのか、彼女の家にいるのか。犬の被りものをしているのかどうかさえも分からない。  それくらいに、ぼくは疲れている。狂おうとした努力の結果だとでも言うべきか、精神がもう。  なんにしても、ソファーに寝転がっていることは確かなようだな。  ゆっくりと身体を起こし、頭を抱。ああ、犬の被りものをしたまま眠ってしまっていたのか。道理で、息苦しかった訳だな。  彼女の裸を見ることができて。いや、浴室で殺してほしいと頼まれてから二日が経っているはず。  つまり、明日。ぼくは彼女を殺さなければ警察につかまってしまう。それは絶対にどちらかを選ばなければならない。  ぼくが警察につかまるか、彼女を殺さ。  うっ、うう。ぼくが彼女を殺すことを想像しているだけなのに腹の中にあるものが勢い良く迫り上がってくる。  犬の被りものを外すのも忘れて、トイレに駆けこみ思い切りはきだしていく。  この二日、ほとんどなにも食べてないからか胃液しかでてこない。 「くう、うううう」  どうして、ぼくがこんな目に遭わなければならないんだ。彼女のことが好きだっただけなのに。 「彼女を、好きだったんだよな。ぼくは」  そうだ。ぼくは彼女のことが好きだった。  真っすぐじゃなくて、ゆがんでいたのかもしれないが、それは本当だ。  だから、ぼくは彼女の願いをかなえる。  ぼくが彼女を愛しているからこそ、殺してあげるんだ。  もう、遠目から彼女を見ているだけだったぼくはすでにいなくなっている。後は、覚悟を決めるだけのこと。 「やっと、向き合う気になったんだな」  耳もとで、得体の知れないなにかの冷たい声が聞こえてきた。
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