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もうすぐ彼女は死んじゃうのか。
さて、どう殺そうかな?
空になっている皿とマグカップを洗って、彼女のいる部屋に向かっていく。
廊下に右足を踏みだし彼女の部屋に近づくごとに、心臓の音が次第に大きくなっているのが分かった。
彼女を好きだった頃とは全く違う音色。
とても冷たく、低い音なのに。どこか耳にまとわりついてくるような。
「落ち着けよ」
彼女の部屋のドアノブを握りながら、ぼくはそんなことを口にしていた。
「誰にでも、なんにでも、はじめてはある。今がそれだ」
「ああ。分かっているさ」
「だったら、心臓から響いているブレーキ音なんて気にしないで。全力でアクセルを踏みこめば良いんだよ」
もう踏み外しているんだからさ、なにかを気にする必要はないんだ。と、ぼくは小さく笑い声を上げている。
「そうだよな」
あの時に、踏み外してしまったんだから。今さら後悔をしてもどうしようもない。この選択が間違っていることが頭で分かっていても、どうせ。
「ああ、そうか。それで彼女はあんなことを願い続けているのか」
戻れないなら、はやく先に進んで。さっさとおわらせてしまったほうが楽。そう考えているからこそ、彼女は。
「ははっ。ようやく、きみを理解することができたよ」
けど、もう遅い。こんな状況になっても、まだ彼女のことを心に思えているのは。
それこそ今さらだよな。だったら、せめて彼女の願いをかなえてあげるのがぼくの役目ってやつで。
「まるで愛の告白だな」
「ジョークはこれくらいにしておこう」
心臓の音は、普段通りになっている。
彼女の部屋の扉を勢い良く開けて、ぼくはできるだけ大きく一歩を踏みだしていた。
「わっ。あ、今日は犬の被りものをしてないんですね。ガードマンさん」
部屋の扉が勢い良く開き、驚いたようで。ベッドの上に座っている彼女が、身体をびくつかせながら口を動かしていた。
「もしかしたら、見てくれを気にしていたのかもしれませんけど。なかなかイケメンさんだと思いますよ」
これからぼくが彼女にすることに心をときめかせているのか口数が多い。
「手ぶら、なんですね」
今日もご飯をもらえる。いや、自分を殺す道具をもってきていると思っていたようで、不思議そうに首を傾げている。
「あの大きなナイフはどうしたんですか?」
彼女の言葉を聞きながしつつ、ゆっくりとベッドのほうに近づいていく。
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