ゴールデンウィークは殺人鬼とクルーズ船 前編

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「学校だからこそ、じゃないかしら」  悪びれた素振りもなく、堂々と。むしろ、誇らしそうにマヤはつぶやいている。 「お、兄さんと待ち合わせをしているので。もう、いってもいいですか?」 「良いわよ。けど、カナデさんが」  と、そこで夢は途切れてしまった。  ノスタルジー。と言うほどではないけど、中学生の時の夢を見るとは。そうそう、あの頃のわたしは取り繕うことをあんまり意識してなかったな。  ゴールデンウィークから数日。わたしは船の上にいた。船と言うか、正確には豪華客船ではあるけど。テレビのコマーシャルとかでやっているクルーズが一番、適切な状況だとは思う。  ただ船上パーティなので、どこかの島に到着したりはしないらしい。  レストラン、温泉、バー、ありとあらゆる施設や娯楽を詰めこんだ豪華客船。うっかり人類が滅亡した時、この船の中にいることができれば、そんな絶望さえも忘れさせてくれそうな気がする。  うんうん、ジョークを考えられるくらいには身体が回復しているっぽい。  ふかふかのベッドを堪能しつつ、ゆっくりと起き上がる。それにしても、わたしが船酔いをするなんて珍しいこともあるんだな。  壁にくっついている丸い形の窓から茜色の光が射しこんでいる。白い雲は黄色に染め上がり、海も青紫色に塗り替えられていた。  こんなにきれいな景色を眺めているのに、お腹が鳴ってしまうとは。  そう言えばカミシロさんが、夕食の後にゲームをやるとかで必ずホールでするように、とか口にしていた気が。  こんこんこん。  ノックの音が聞こえてきたので。返答をしながら部屋の扉を開けると、軽くにやついている色黒の男性が立っていた。 「やあ。気分はどうかな?」  色黒の男性の首にぶら下がっている、高価そうなシルバーアクセサリーが振り子のように揺れている。 「見ての通りですよ」 「いやいや。見ても分からないんだけど?」  そう言われたので、誰にでも今の状態が分かるように、わたしは思い切り万歳をした。  個人的には笑う場面でもないと思うけど、面白かったらしく色黒の男性が腹を抱えて笑っている。 「オーケー。オーケー」  人差し指と親指をくっつけ、わたしに見せてくれた。笑われてしまったのは不本意だが、わたしの状態は伝わったらしい。 「ははっ。あー、ジンがきみを選んだ理由がなんとなく分かったよ」
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