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きれいな目をしている。前から魅力的だと思っていたが、この状況にときめかせているからか、その黒い瞳の輝きがさらに。
「あの、わたしの声が聞こえて」
目が合った。どす黒く染まっているぼくの瞳を見て、彼女は唇のはしっこをゆっくりと上げている。
「その目は」
彼女の顔面をぼくは殴れていた。あれだけ意識をしても、できなかったのに。なにかを言いかけていたようだが関係ない。
骨でもおれているようで鼻血を垂らして、ベッドのシーツに赤い染みをつくっている。
おそらく、鼻の痛みで身体を震わせている彼女を横目で見ながら、ベッドの上に移動。
右足を後ろに振り上げ、女の子座りをしている彼女のみぞおちの辺りを蹴った。
「んはっ、うう」
上半身を倒して、土下座のようなポーズになっている彼女の背中を左足で思い切り踏みつけて、動けないようにしたまま。
彼女のこめかみを右足で蹴り上げる。脳が揺れて気を失ったのか動かなくなっていた。
いや。微かに身体が振動しているような。念のため、顔を二、三回ほど蹴っておこう。
背中にのせていた左足を退かせ、頭がふらついているであろう彼女をベッドの上であお向けにさせていく。
鼻の穴から血を垂らしているけど、やはり美しく可愛らしい顔立ちをしている。
激しく雨が降ってきているようで窓のほうからそんな音が聞こえていた。
「もう涙はでてくれないのか」
そう口にしながら、ぼくは彼女の腹の上にまたがって。手錠の鎖部分が動いた、意識を取り戻したのか目を細めている彼女がこちらを見上げている。
「お、お兄ちゃん?」
まだ意識を完全に取り戻してはないようで小さな子どもみたいな話しかたを。
「お兄ちゃん、ごめんね」
「なにが?」
頭が混乱をしている人間を相手にする必要なんて、ないとは分かっているのに。ぼくは彼女に声をかけていた。
「なにって、お母さんとお父さんのこと」
「あれは、カナデは悪くないだろう」
「ううん。わたしのせいだよ。わたしが刺したり、食べたりしなかったら」
目の前で泣いている彼女が、なんのことを言っているのか分からないが。ぼくができることを一つだけ知っている。
「カナデは、辛いのか?」
「うん」
泣きじゃくり、彼女はうなずいていた。
「やっぱり、カナデは死にたいのか?」
「でも、お兄ちゃんが死んだら駄目だって」
「ああ、そうだったな。けど、カナデがそんなに辛いんだったら死なせてやる」
ぼくが目の前の彼女にほれてしまったのはこの瞬間のためだったんだろうな。殺人鬼になり、その苦しみを。
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