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「美味しいか?」
「うん。まあ」
のは、良いんだけど。わたしが半分くらいかじったナシを食べるのは、色々とどうなんだろうな。
まあ、そのことについてはヒマな時にでも考えるとして。
「わたしの記憶違いなのかもしれないけど。兄さんは忙しくて、すぐに家に帰ってこられなかったはずじゃ?」
数日前みたいな電話をかけてくる時は最低でも、一週間ほどは家に戻れないのに。
「だから、おばさんにカナデのことを頼んでいたんだ。なにかがあったら連絡してくれるように」
「そうだったんだ。うん? でも、おばさんはどうやってわたしが監禁されていることを知ったの?」
少なくとも、なにかしらの異変があることを確認しない限りは兄さんに連絡なんかを。
「それなんだがな。兄さんもよく分からないんだけど。カナデを監禁していたやつが犬の被りものを身につけた状態のままで家の中に入っていくのを見たとかなんとか」
「あー、そうなんだ。やっぱり、変な人だったんだね」
わたしが半ば強引に話をおわらせた理由を勘違いしたようで、兄さんがだまって。あ、笑顔になった。
「お兄ちゃんな、カナデのことが大好きなんだぞ」
「うん。いやなくらいに知っている」
「本当か?」
「本当だよ」
そう、わたしが返答をすると兄さんが右手を握りしめていく。
「痛いよ。お、兄さん」
「本当にごめんな。遅くなって」
「だから、お兄ちゃんは悪くないって」
「じゃあ、また明日もくるからな。カナデ、大好きだよ」
「しばらく、こなくても良いけど。わたしも大好きだよ、お兄ちゃん」
そんな別れの挨拶だけが頭の中で、なん回も響いている。病室が暗くなっていて、他に考えることがないからかな。
それに、五感が鋭くなっているのか薬品のにおいが鼻につき。一人のはずなのに、なんだか誰かから見られている気がして落ち着かない。
身体が痛む、特にお腹の辺りが。そんな風に感じていても疲れているようで口を大きく開けて欠伸をしていた。
眠くて、ゆっくりと目を細めてしまう。
このまま、ずっと死人みたいに眠ることができたらな。ひんやりしたなにかが、わたしの身体を包みこんでくれる。
お休みなさい。今日こそ、目覚めることができませんように。
そう願いつつ、わたしは目を閉じていた。
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