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なんだか空気がぴりついているせいか真剣そうな顔つきをしているミヤシロさんから、目を逸らしてしまう。
「今は、反則じゃないですかね。色々と」
「手段なんか選んでられないからな。鉄壁のオツノを口説くのなら今しかチャンスがなさそうだし」
それに今みたいに顔を赤くしているオツノはかなりレアだろうしな。と、ミヤシロさんがにやついている。
「からかわないでくれませんか」
「からかってはないな」
わたしの右手を包みこむように握りしめているミヤシロさん。悪夢を見ていたせいか、なんだか気分が落ち着いていた。
「船の時から気にはなっていたんだ。告白をするようなタイプでもないんだけど、オツノにはきちんと伝えないとはぐらかされるからな」
「そんなことまでは、しないかと」
「顔を逸らしているのにか?」
右目に眼帯をしていて分からないが、顔を近づけているようで耳もとでミヤシロさんの声が聞こえている。
「別に、いやならそれでも良いんだ。どちらにしてもオツノを口説くには強引さが必要になりそうだからな」
死にたがっている人間をどうにかするのはそれなりに大変だろうし。と、ミヤシロさんが言っていた。
勢い良く振り向い、思っていたよりもミヤシロさんの顔面が近くにあったので、後ろに下がってしまう。
「あはは。なんか、今日のオツノは普段よりも可愛く見えるな。小さな子どもみたいに、ころころと表情を変えてくれるから」
「やっぱり、からかって」
唇を押しつけられて、ミヤシロさんにキスをされてしまった。頭の中の色々なものが、一瞬で消えていくような。
「抵抗しなかったってことは、可能性があると思っても良いのか?」
色々と考えているはずなのに、頭が上手く動かせない。顔が熱い。心臓も今まで感じたことがないくらいに激しく。
「ん」
「動揺をしているところ悪いけど。このまま押し通させてもらう」
わたしの耳を触っているミヤシロさんが、また唇にキスをしている。抵抗しなきゃいけないのに、力が抜けていて。
なぜか、頭の中で彼の顔が浮かんでいる。
「お前のことが好きだ。カナデ」
多分、本当に真剣に一人の女性として告白してくれているであろうミヤシロさんの言葉に、わたしは。
「なにかあったんですか? オツノさん」
なんとか帰ってもらった友達と入れ替わるように病室に入ってきた看護師さんが、その赤い髪を揺らしながら聞いてきている。
確か、名前はミドリさんだったっけ。
「なんだか元気がなさそうに見えますけど」
「そもそも元気がないからこそ入院をさせてもらっている立場のような」
「相変わらず面白いことを言いますね」
思っていることを言っただけで、別に笑わせるつもりはなかったのにミドリさんは楽しそうに笑っていた。
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