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サボタージュするのか、先ほどまで友達が座っていたパイプ椅子に。ミドリさんが勢い良く腰を下ろしている。
「サボタージュじゃなくて、これは休憩って言うんですよ。それになにやら悩みを抱えている女性の話を聞くのも看護師の務めかと」
さらっと心を読まないでほしいけど。このミドリさん、看護師よりも占い師とかのほうが向いてそうな気がするな。
おそらくだけど顔色とかで、わたしの考えを読んだんだろうし。
「看護師さんのほうが」
「ミドリさん、と呼んでくれる約束では?」
「そうでしたね。えっと、ミドリさんのほうが口が上手いかと」
「そうかもしれませんね。どちらかと言うと本職はそちらですので」
「心理カウンセラーですか?」
真っすぐに伸ばしている人差し指を左右に振りながらミドリさんが否定をしている。
「わたしのことはどうでも良いはず。今は、オツノさんの悩みを聞かせてもらう時間ですからね」
入院をしているのはオツノさんで、わたしは看護師なんですからね。そう口にすると、ミドリさんはこれ以上はなにも話しません。とでも言いたそうな顔つきで、こちらを見つめていた。
まるで殺人鬼のような鋭い視線で、抵抗をしてもどうしようもないとなぜか身体が理解をしている。
そんなわたしにできるのは、先ほどのことをミドリさんに絶対にうそをつかないで話すだけなんだろうな。
「悩み。って言うほどでもないんですけど。友達と思っていた男性に告白をされまして」
普通なら相手がどうであれ、好意を向けられていることが判明するんだから、うれしいはずなのに。とでも思っているようで不思議そうにミドリさんが首を傾げていた。
「それほどうれしくなさそうなところを見ると。その男性に恋人がいるとか、全くタイプじゃないとかですか?」
「タイプとか、そんなこと以前に。そもそもの問題と言うか」
そうは頭で考えていても、あんな風に押されたら身体がそれなりに反応してしまうのは全く意識してないが、望んでいるって可能性もないとは。
「頭に」
ミドリさんがこめかみの辺りに、真っすぐ伸ばしている人差し指を向けている。
「頭に、その男性以外に浮かんでくる異性はいたりしますか? オツノさんは」
半ば強引に口説かれている時に確かに彼の顔が浮かんできたけどミドリさんはそのことを言っているんだろうか?
「その男性に告白された時に、なぜだか別の異性の顔が頭の中に浮かびましたね」
「それですね」
「はあ。それですか」
とは答えているものの、どれなんだか。
「これ以上は野暮なので言いませんが。その頭に浮かんできたことが、カナデさんの本音なんでしょうね」
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