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「お嬢さんは、この病院のうわさ話を聞いたことがありますか?」
「殺人があったとかなかったとかでしたら」
そのことで正解です。とでも言いたそうに看護師さんが笑みを浮かべている。きれいな顔立ちで魅了されてしまいそうな表情なのに冷ややかな感じがした。
言葉を選ばないで良いのなら、まるで。
「なんだかお嬢さんには隠しても意味がなさそうなので言ってしまいますが。この中庭で殺人がありました」
ほら、目の前に大きな木があるでしょう。その当時はなかったのですけど、そこで殺されてしまったとか。と、看護師さんが指差しながら赤い唇を動かしている。
「確か、男女関係のせいでしたかね」
「ああ。それで先ほど、安心しましたって」
あのミヤシロさんがそんなことをしないとわたしは分かっているが。この病院で働いている看護師さんなら、そんな考えかたをするほうが普通だろうな。
「万一があったとしても、病院ですからね。大抵のケガはなおせると思いますので。色々とご心配なく」
「そんなところなのに、どうして」
もしかしたら、軽いジョークだと認識して笑うべきだったのかもしれないけど。頭の中に浮かんできた言葉を、そのまま声に。
わたしが口にすることをすでに知っていたのか。質問がおわる前に、看護師さんが。
「だって、食べられてしまったので」
それ以上ないぐらいシンプルに冷ややかな声で答えてくれていた。
「こうやってね。きみを殴っているのは好きだからなんだよ」
なにかの虫みたいに身体を丸くしていると天井のほうから声が聞こえていた。
あの時の、と言うことは夢なんだな。
どうやら夢の世界では痛みを感じないようで、顔を蹴られたのに。
「だから、きみにあんなことをさせたんだ。おれはこの世界で誰よりも愛しているから」
確か、わたしはこの後でなにかを言い。
まだ眼帯になれてないせいか視界の半分が塞がれているのは、なんだか違和感がある。
寝起きで見えている部分もぼやけて、誰かがパイプ椅子に座っているようだな。
「あ、どうも。おはようございます」
頭のほうは目覚めてないのか傍らに座っている彼の名前がでてこない。
相変わらず目つきが悪いので、なにかしらのルールを破っているタイプの人間に見えてしまう。
「ああ。おはよう、オツノさん」
「わたしの記憶違いだったら良いんですが。確か、今日は先輩がきてくれるはずでは?」
「そうだったんだけど。オツノさんが眠っていたからな、先に帰ってしまったんだ」
「はあ。そうなんですか」
相談と言うほどではないが、少し話をしたかったのに。それはそうと、どうして目つきの悪い彼はここにいるのだろう?
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