一時的な退院

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 昔話の女の子じゃないけど、わたしが目を覚ます時間が正確に分かっていた訳でもなさそうなのに。  しばらく、お互いにだまっていると。 「看護師さんから、ミヤシロさんとのことを聞かせてもらったんだ」  悪かった。と、目つきの悪い彼がらしくもなく申し訳なさそうにわたしに謝っている。 「男女関係の話だからな。おれが口を挟める立場じゃないことは分かっているんだが」  途中で、目つきの悪い彼は唇を動かすのをやめてしまった。わたしもどんな風に言葉を返せば良いのか全く分からない。 「こわい夢でも見たのか?」  一瞬、目つきの悪い彼の言っていることに首を傾げてしまったが。自分でも知らない間にその大きな左手を握りしめていたようだ。 「あの、ごめんなさ」 「いや。このていどなら良いだろう。オツノさんは入院している人間なんだからな」 「ものは言いようですね」  人間の本能なんだろうか、相手が誰であってもこんな風に近くにいると認識すると安心をしてしまうなんて。 「悪い。オツノさん」  そんな言葉が聞こえたのと同時に、目つきの悪い彼に握り返され大きな左手に包みこまれていく。  反応をしてはいけないと、頭ではきちんと理解しているはずなのに。身体が震えて、顔全体がゆっくりと熱くなっていて。 「び、病院ですし。それに誰かくるかも」  友達だと思っていた目つきの悪い彼にキスをされてしまった。視線がぶつかり顔を逸らそうとしたけど右手で軽く押さえつけられていて動かせない。 「んっ」  目つきの悪い彼の顔が、はなれたと思ったのに唇をなぞるようになめている。 「強引すぎだよな、オツノさん。でも、こうでもしないと」  近くで、目つきの悪い彼がなにかを言っているはずなのに。大きな右手で耳を触られているからか聞こえづらい。 「だ、誰かが」 「関係ない。それにそのほうが色々と都合が良いかもしれないからな」  抵抗しなきゃいけないのに、身体に上手く力が。 「オツノさんがどの男のことを好きでも関係ない。そんなものは全て、おれが上書きしてやる」  そう、目つきの悪い彼は言ってくれているけど。わたしは、できることなら。またキスをされてしまった。  ミヤシロさんの時と違って、わたしの口の中にゆっくりと舌が入ってきて。  幻でも見ているのかな? 視界のはしっこで、病室の扉が開いているように。しかも、それはおそらくミヤシロさんで。
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