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◇◇◇◇◇
射撃訓練場に、銃声が反響する。
ダミーの銃弾は的確に、人型をかたどった的の頭部を貫通した。
「あいつ、来ると思うか?」
動かない的をにらみつけたまま、アルヴァーは静かにそう言った。
近づいてきた足音がぴたりとやむ。
隣のレーンで、ルティスは訓練用の銃に弾を装填し、奥の的に狙いを定めた。
「来るよ」ルティスは正面を向いたまま断言する。
「きみも見ただろう? あのときのエルザの目は、死んでいなかった」
拘束中のエルザは、生きる気力さえ失ってしまったかのようだった。
だがヴァンパイアの話をした瞬間だ。
彼女のうつろな瞳が、一瞬光を取り戻したのである。
ルティスとアルヴァーはその変化を見逃してはいなかった。
再びヴァンパイアに連れ去られたとはいえ、彼女の性格上このまま動かないはずがない。
自分たちの知るエルザはそういう女性だ。
今でもそうであってほしいと信じている。
「……そうだな」
アルヴァーはルティスの横顔を見遣ると、挑発的に口角を上げた。
再び目の前の的に銃口を向ける。
訓練場には、何発もの銃声が響き渡っていた。
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