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第1話 『はい』は一回
「エルザ・バルテルス! 貴様、何度同じことを言わせれば気が済むんだ!?」
クルースニク東支部。
ヴァンパイアおよびグール退治を専門とする団体支部の隊長室で、アルヴァー・ストークマンは声を荒らげた。
赤色の短髪をがしがしと掻いて、これでもかというほど深いため息をひとつ落とす。
耳のふちを飾るいくつものシルバーピアスが、髪色を反射してキラリと光った。
「だいたい、お前は昔っから……」
腕を組み、ぶつぶつと小言を連ねる彼は、残念ながら隊長ではない。
支給される白色の制服の襟に施された金のラインは一本。つまりは副隊長である。
「って、聞いてるのか!? エルザ・バルテルス!!」
夕日を背にしたアルヴァーの怒号が、部屋中に響き渡る。
南西に面した大きなガラス張りの窓から差しこむやわらかな夕日とは対照的に、その声色はおもわず肩をすくめてしまうほどだ。
ところが、そんな彼の怒気もなんのその。
怒られているはずの女は、なぜか堂々と応接用の二人掛けソファを陣取ってタバコをふかしていた。
「はいはい、ちゃんと聞こえてるって」
「『はい』は一回!」
「は~い」
煩わしそうに、エルザは長い金髪を手ぐしで掻きあげる。そうしてアメシスト色の瞳を細めると、小さなあくびをひとつこぼした。
「毎度毎度、なんでそんなに団体行動ができないんだ!!」
「あたしは他人とつるむ気はない」
待機終了間際に呼び出されたかと思えば、これである。
飽きもせず幾度となく繰り返されたセリフに、エルザは何十回目になるかわからないお決まりの答えを返してやった。
「お前はまたそうやって!」
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