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古来より、ヴァンパイア退治には銀製の武器が有効とされてきた。団体の書庫にある古い文献のどれもが、それを如実に物語っている。
だからこそ、団体はわざわざ高価な銀製品を武器として支給しているのである。
だが実際、任務中にヴァンパイアに遭遇することは珍しい。否、皆無と言っても過言ではない。
各支部に報告される被害のほとんどが、グールの仕業によるものが多かった。
「さてと、仕事しますか」
来た道を戻る馬車を見送り、森の中を歩くこと数分。
エルザがたどり着いたのは、森のはずれにある小さな町の一角だった。簡易的なバリケードで囲まれたそこは、一般人立ち入り禁止区域に指定されている。
というのも以前、町でグールが大量に出現。多数の被害が出たことから、団体が一時的に該当区域を封鎖したのである。
たとえ区域外であっても、すでに周辺にヒトは住んでいない。
町の住人たちは、それぞれが団体の用意した避難施設か、知人を頼るなどして町を離れていた。
立ち入るのは調査やグールの駆除のため派遣されたクルースニクか、度胸試しに侵入する命知らずな若者たちくらいである。
「『誰もいないはずの町に、人影がうろついている』、ねぇ……」
報告書に記載された情報を思いだしながら、エルザは規制線の赤いロープをくぐった。
「調査チームが遭遇したのが一体。てことは、群れで行動するやつらが、まだ町の中にひそんでる可能性はある、ってことね」
幸い、まだ近くでヒトや家畜が襲われたという報告はない。
しかし予測される被害を未然に防ぐのも、クルースニクの大事な仕事である。
エルザは耳を澄まして、注意深く辺りの様子をうかがう。
シン……、と静まり返った町に明かりはなく、ただ冷たい暗闇が、辺り一帯を支配していた。頼りない月明かりだけが、ぼんやりと町の姿を照らし出している。
ひとけのない町並みが、闇の中で不気味に浮き上がっていた。
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