21人が本棚に入れています
本棚に追加
――特に変わったところはないわね。
気味が悪いほどの静寂の中、じっと神経を研ぎ澄ませる。
小さな虫の羽音が響き、遠くでフクロウが鳴いていた。
そのときだった。
エルザの耳が、わずかな物音をとらえる。それは自然界の音とはほど遠く、現状においてはあきらかな異変である。
ズル、ズル、となにか重さのあるものを引きずるような音に交じって、奇妙なうめき声が空気を震わせた。
「いた……!」
エルザはすばやく太もものホルスターから銃を手に取り、一目散に走りだす。
せまい路地を抜け、ひたすらに音が聞こえた方角を目指す。
逃げられる前に、もしくはこちらの存在に気がつかれる前に仕留めなくてはならない。後手に回れば、今度は自身が危険にさらされることになる。
――逃がさない!
エルザは銃の安全装置をはずしながら、移動しているとおぼしき気配を追った。
空き家となった、まだ新しい家の角を曲がる。
直後、正面に向けて銃弾を放つ。
怪しい気配の実体を視界にとらえた。
――チッ、はずした!
小さく舌打ち、エルザは地面にうずくまるようにしている黒い影にすぐさま銃口を向ける。
最初のコメントを投稿しよう!