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「エルザが、ダンピールだから、だろうな」
その言葉に、アリシアはおもわずダグラスを見た。
彼は横たわるギルベルトから視線をはずさず、じっと包帯の下の傷を見つめているようだった。
「ダンピールの能力、それ自体はヴァンパイアに比べればはるかに劣る。いくらヴァンパイア寄りになろうともな。だが……」ダグラスは一度言葉切り、わずかに息を吸った。
「ダンピールは唯一、ヴァンパイアに傷をつけることができるともいわれている」
「それが、お兄さまの傷の治りを遅くしていると?」
「おそらくな」
ダグラスはそれきり口を閉ざしてしまい、アリシアもまたなにかを考えこむように黙ってしまった。
兄のひたいに乗せた濡れタオルを手に取れば、冷たかったはずのそれはいつの間にか熱を蓄えていた。
深手を負ったせいなのか、ギルベルトの熱が下がらない。
それは彼の体力を消耗させ、いたずらに治癒力を奪っていった。
時折苦しそうに表情を歪める彼は、うわ言のように何度も何度もエルザの名を呼んでいた。
そのたびに、アリシアの胸は締めつけられるように痛む。
「……ダグ、あなたにお願いがあります」
「なんだ?」
ふと、兄のひたいににじむ汗をぬぐうアリシアの手が止まった。力なく離れた腕を、彼女は静かに下ろす。
うつむいた彼女の手の中で、タオルがくしゃりとしわを寄せた。
アリシアが勢いよく振り向く。
グリーンガーネットの瞳が、今にもこぼれ落ちそうなほどに潤んでいた。
それはまばたきの弾みで大粒の雫となって、次から次へと落ちていく。
小さく肩を跳ねさせながらも、彼女はダグラスのシャツをつかんで彼の腕にすがりついた。
「お姉さまを、見つけてっ……!」
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