第42話 おあつらえむきな雰囲気

2/4
前へ
/173ページ
次へ
「……いると思うか?」 「……わからない」  アルヴァーのつぶやきに、ルティスは苔だらけの小屋のドアを見つめたまま答える。  数日前に(イースト)支部にもたらされた情報。  それは、『町外れの小屋にグールが棲みついている』というものだった。  一見すればただのグール退治の依頼である。隊長と副隊長が二人して出向く必要はない。  しかしその報告書の備考欄に記された一文が、二人にとっては無視できない内容だったのだ。  小屋の所在地はエッケシュタットの東端。  行方不明であるエルザが、最後に目撃された町と同じである。  これは偶然の一致だろうか。  わずかな可能性に賭けて、ルティスとアルヴァーはそろってこの地を訪れたのだった。 「アルヴァー、用意は?」 「いつでもいける」  銃を構えたルティスとアルヴァーは、朽ちたドアを左右からはさむようにして、小屋の壁に背をつけた。  半開きのドアのすきまを、湿った風がわずかに音を発して吹き抜けていく。  部下たちへすばやく目配せし、小さく首を上下させたルティスの合図で、アルヴァーは一気に壊れかけのドアを蹴破った。  ほかの小屋からも、次々と似たような音がこだまする。  舞い上がった土ぼこりが、キラキラと陽光を反射していた。
/173ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加