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それはゆっくりと、しかしまっすぐに二人に向かってくる。
ルティスは銃を、アルヴァーはサーベルを構えて、じっと影の動きを凝視する。
エルザであればいいという期待と、そうでないことを祈る思いが交錯していた。
「っ、おいおい……」
姿を見せた影の正体に、アルヴァーはわずかに構えをゆるめた。
「『金髪のヴァンパイアが出る』と聞いて来てみりゃ、犯人はただのワーウルフとはね」
暗がりから低いうなり声を上げたのは、漆黒の毛並みをなびかせたオオカミ―ダグラスだった。
ヒトが乗れるほどに大きな体躯をもつ彼は、深紅の瞳を細めて殺気立つ。
「ふん、かようなものどもと一緒にするな」
「しゃべった!?」
自分の予想に反して口をひらいた獣に、アルヴァーは一瞬たじろいだ。
ヒトとオオカミの混血といわれるワーウルフは、本人にその自覚はない。
ヒトとして生きている者が、夜間無意識にオオカミの姿に変化して活動しているのである。
当然オオカミとなっている間の記憶はなく、人語を話すこともない。
「なるほど。このグールはあなたが? それともほかに」
すぐさまオオカミの正体を見抜いたルティスは、冷静に言葉を交わす。
言葉が通じる相手であれば、コミュニケーションの余地はあるだろう。
だがそれは、再び現れた何者かの気配にさえぎられてしまった。
グールの生き残りがいたのだろうか。
物音がしたのは入口付近である。
積み重ねられた大きな木箱。そのうしろで、人影がゆっくりと揺らめいた。
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