第42話 おあつらえむきな雰囲気

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 それはゆっくりと、しかしまっすぐに二人に向かってくる。  ルティスは銃を、アルヴァーはサーベルを構えて、じっと影の動きを凝視する。  エルザであればいいという期待と、そうでないことを祈る思いが交錯していた。 「っ、おいおい……」  姿を見せた影の正体に、アルヴァーはわずかに構えをゆるめた。 「『金髪のヴァンパイアが出る』と聞いて来てみりゃ、犯人はただのワーウルフとはね」  暗がりから低いうなり声を上げたのは、漆黒の毛並みをなびかせたオオカミ―ダグラスだった。  ヒトが乗れるほどに大きな体躯をもつ彼は、深紅の瞳を細めて殺気立つ。 「ふん、かようなものどもと一緒にするな」 「しゃべった!?」  自分の予想に反して口をひらいた獣に、アルヴァーは一瞬たじろいだ。  ヒトとオオカミの混血といわれるワーウルフは、本人にその自覚はない。  ヒトとして生きている者が、夜間無意識にオオカミの姿に変化して活動しているのである。  当然オオカミとなっている間の記憶はなく、人語を話すこともない。 「なるほど。このグールはあなたが? それともほかに」  すぐさまオオカミの正体を見抜いたルティスは、冷静に言葉を交わす。  言葉が通じる相手であれば、コミュニケーションの余地はあるだろう。  だがそれは、再び現れた何者かの気配にさえぎられてしまった。  グールの生き残りがいたのだろうか。  物音がしたのは入口付近である。  積み重ねられた大きな木箱。そのうしろで、人影がゆっくりと揺らめいた。
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