第44話 伸ばした右手

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「お兄さま……!」 「ア、リシア?」 「よかった……! お兄さまがご無事で……! 本当によかった……!!」  イスから腰を浮かせて両手で顔を覆ったアリシアが、小さく肩を震わせていた。  目尻の涙をぬぐうアリシアの顔色は良くない。  一方で、彼女は心から安堵した表情を見せて笑みを浮かべていた。 「アリシア……、っ……!」  妹へと伸ばしかけたギルベルトの手が止まる。  苦痛に顔をゆがめて、彼は仰向けにベッドに倒れた。 「いったー……。なにこれすっごい痛いんだけど……」  意識が戻ったせいで、とたんに体に巻かれた包帯の下がズキズキと痛みを訴える。  片腕で視界をさえぎり、ギルベルトは深く息を吐いた。  全身が汗ばんでいて、ひどく気持ちが悪い。 「っはぁー……、ねぇアリシア、エルザは?」  最後に見た彼女は、憎しみで我を忘れかけていた。  朦朧とする意識の中で、彼女が泣いているような気がしたのはきっと錯覚なんかではない。  今もどこかでひとり、涙を流していたらと思うといてもたってもいられなかった。  早く彼女をこの腕に抱き、その存在を確かめたい。 「……アリシア?」  アリシアはなにも言わない。  下唇を噛みしめて、兄の視線から逃れるようにうつむいていた。 「アリシア? なにかあった?」 「……っ」  アリシアが震える唇をひらきかけた瞬間、部屋のドアが力任せに壁に叩きつけられた。  弾け飛んだかと思うほどの大きな音に、二人の肩がびくりと跳ねる。  反射的に体を起こして身構えれば、そこにいたのはダグラスで。  ドアを開け放った体勢のまま、彼は汗だくになった全身で息をしていた。 「っ、見つけたぞ!!」顔を上げると同時に、ダグラスはそう言い放った。
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