26人が本棚に入れています
本棚に追加
「ダグ!? あなたケガを……!!」
慌てて彼に駆け寄るアリシアをよそに、ダグラスは煩わしそうに頬の傷口をぬぐった。
ひたいから流れ出た血液はすでに乾いていたが、顔や腕には小さなすり傷がいくつもできている。
「こんなもの、放っておいてもすぐに治る。それより、エルザを見つけた!」
ダグラスの言葉に、ギルベルトはわずかに眉間にしわを寄せる。
見つけた、とはどういうことなのか。
自分が寝ている間に、エルザになにがあったのか。
次々と浮かぶ疑問の答えを求めて、ギルベルトはじっとダグラスの言葉を待った。
「クルースニクだ」
ダグラスが静かに告げた。
まさかの彼女の所在に、ギルベルトはおもわず前のめりになる。
傷口が痛んだが、今はそんなことに構ってはいられない。
ギルベルトはまっすぐにダグラスを見遣った。
「クルースニク東支部。そこに、エルザはいる」
屋敷を飛び出したエルザの状態はあきらかに異常だった。
クルースニクに保護されたといっても、身の安全は保証できない。
ダグラスは小屋でのできごととエルザの様子を、今は動けぬ友へと正確に伝える。
しばしの沈黙が流れた。
すべての判断はギルベルトに託されている。
「……アリシア」
「はい、お兄さま」
「俺のケガ、あとどのくらいで治るかなぁ?」
「そうですわね、七日、といったところでしょうか……」
ギルベルトの受けた傷はけっして浅くはない。
通常の怪我ならばとうに完治しているはずだが、ダンピールによるものだということがその治りを遅くさせていた。
多めに見積もっても、完治にはもうしばらく時間を要するだろう。
「……三日だ」
つぶやかれたひと言に、アリシアもダグラスもおもわずギルベルトを凝視した。
彼のアクアマリンの瞳が、まっすぐに二人に向けられている。
「三日後、エルザを迎えに行く」
静かすぎるほどの室内で、三つの唇が人知れず弧をえがいた。
最初のコメントを投稿しよう!