第44話 伸ばした右手

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「ダグ!? あなたケガを……!!」  慌てて彼に駆け寄るアリシアをよそに、ダグラスは煩わしそうに頬の傷口をぬぐった。  ひたいから流れ出た血液はすでに乾いていたが、顔や腕には小さなすり傷がいくつもできている。 「こんなもの、放っておいてもすぐに治る。それより、エルザを見つけた!」  ダグラスの言葉に、ギルベルトはわずかに眉間にしわを寄せる。  見つけた、とはどういうことなのか。  自分が寝ている間に、エルザになにがあったのか。  次々と浮かぶ疑問の答えを求めて、ギルベルトはじっとダグラスの言葉を待った。 「クルースニクだ」  ダグラスが静かに告げた。  まさかの彼女の所在に、ギルベルトはおもわず前のめりになる。  傷口が痛んだが、今はそんなことに構ってはいられない。  ギルベルトはまっすぐにダグラスを見遣った。 「クルースニク(イースト)支部。そこに、エルザはいる」  屋敷を飛び出したエルザの状態はあきらかに異常だった。  クルースニクに保護されたといっても、身の安全は保証できない。  ダグラスは小屋でのできごととエルザの様子を、今は動けぬ友へと正確に伝える。  しばしの沈黙が流れた。  すべての判断はギルベルトに託されている。 「……アリシア」 「はい、お兄さま」 「俺のケガ、あとどのくらいで治るかなぁ?」 「そうですわね、七日、といったところでしょうか……」  ギルベルトの受けた傷はけっして浅くはない。  通常の怪我ならばとうに完治しているはずだが、ダンピールによるものだということがその治りを遅くさせていた。  多めに見積もっても、完治にはもうしばらく時間を要するだろう。 「……三日だ」  つぶやかれたひと言に、アリシアもダグラスもおもわずギルベルトを凝視した。  彼のアクアマリンの瞳が、まっすぐに二人に向けられている。 「三日後、エルザを迎えに行く」  静かすぎるほどの室内で、三つの唇が人知れず弧をえがいた。
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