第45話 最重要参考人

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第45話 最重要参考人

◇◇◇◇◇  クルースニク(イースト)支部の地下牢は、普段以上の緊張感を漂わせていた。  それもそのはず。  現在、地下牢に収容されているのは最重要参考人。  とはいえ身元もはっきりしており、なにより隊員たちにとっては顔なじみであるという事実が、彼らをいっそう困惑させていた。 「……隊長は」隊員の一人―セシルがぽつり、とつぶやく。  彼のほうへと顔を向けた相方の視線を感じながらも、セシルはうつむき加減で地面を見つめたままだった。 「なんで、を地下牢なんかに入れたんだろうな」  表情をゆがめるセシルに、相方もまたそっと目を伏せた。  隊長の考えはわからない。  きっとなにかしらの意図があってのことなのだろう。  だが今回の隊長の指示に疑問をいだく者が、少なからずいるというのも現実だった。 「暴走の、可能性がある、って話じゃなかったか?」 「だとしても、こんなのあんまりだ……! あの人がなにをしたってんだよ! あの人はっ……!」「しっ!」  カタカタカタ……、と規則的な音を奏でながら降下する昇降機に、二人はそろって襟を正した。 「「おはようございます! 副隊長!」」 「おー、おつかれさん」  小ぶりなワゴンを押して昇降機から降りてきたアルヴァーは、緊張した面持ちで敬礼する部下たちに視線を送った。  ワゴンの上には、食堂で提供される朝食が一人前。  まだあたたかいスープから白い湯気がふんわりと立ち上ぼり、パセリが散った黄色い水面に波紋を広げていた。 「異常ないか?」 「はい! 問題ありません!」  地下空間にわずかに反響するセシルの声に、アルヴァーは視線をそらして「そうか……」と相づちを打つ。 「……わりぃ、ちょっと外してくれるか?」 「かしこまりました!」 「くれぐれも、お気をつけて」  副隊長の指示に、二人はさっ、ときびすを返す。  部下たちの姿が昇降機に乗りこむのを見送って、アルヴァーは深々と息をついた。  そうして、彼はおもむろに地下牢の奥へと足を向けた。  アルヴァーの足音だけが、静かな地下の空気を揺らしていた。  錆びた鉄と、湿った土のにおい。  すぐに鼻がにおいに麻痺していくのを感じながら、アルヴァーは迷うことなく最奥へと進んでいく。 「……よぉ、生きてっか? エルザ」
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