26人が本棚に入れています
本棚に追加
第45話 最重要参考人
◇◇◇◇◇
クルースニク東支部の地下牢は、普段以上の緊張感を漂わせていた。
それもそのはず。
現在、地下牢に収容されているのは最重要参考人。
とはいえ身元もはっきりしており、なにより隊員たちにとっては顔なじみであるという事実が、彼らをいっそう困惑させていた。
「……隊長は」隊員の一人―セシルがぽつり、とつぶやく。
彼のほうへと顔を向けた相方の視線を感じながらも、セシルはうつむき加減で地面を見つめたままだった。
「なんで、あの人を地下牢なんかに入れたんだろうな」
表情をゆがめるセシルに、相方もまたそっと目を伏せた。
隊長の考えはわからない。
きっとなにかしらの意図があってのことなのだろう。
だが今回の隊長の指示に疑問をいだく者が、少なからずいるというのも現実だった。
「暴走の、可能性がある、って話じゃなかったか?」
「だとしても、こんなのあんまりだ……! あの人がなにをしたってんだよ! あの人はっ……!」「しっ!」
カタカタカタ……、と規則的な音を奏でながら降下する昇降機に、二人はそろって襟を正した。
「「おはようございます! 副隊長!」」
「おー、おつかれさん」
小ぶりなワゴンを押して昇降機から降りてきたアルヴァーは、緊張した面持ちで敬礼する部下たちに視線を送った。
ワゴンの上には、食堂で提供される朝食が一人前。
まだあたたかいスープから白い湯気がふんわりと立ち上ぼり、パセリが散った黄色い水面に波紋を広げていた。
「異常ないか?」
「はい! 問題ありません!」
地下空間にわずかに反響するセシルの声に、アルヴァーは視線をそらして「そうか……」と相づちを打つ。
「……わりぃ、ちょっと外してくれるか?」
「かしこまりました!」
「くれぐれも、お気をつけて」
副隊長の指示に、二人はさっ、ときびすを返す。
部下たちの姿が昇降機に乗りこむのを見送って、アルヴァーは深々と息をついた。
そうして、彼はおもむろに地下牢の奥へと足を向けた。
アルヴァーの足音だけが、静かな地下の空気を揺らしていた。
錆びた鉄と、湿った土のにおい。
すぐに鼻がにおいに麻痺していくのを感じながら、アルヴァーは迷うことなく最奥へと進んでいく。
「……よぉ、生きてっか? エルザ」
最初のコメントを投稿しよう!