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返事はない。
鉄格子の向こうの横顔は、アルヴァーが来たことなど気づいてもいない様子でピクリとも動かない。
乱れた髪も、汚れた手足も衣服もそのままに、エルザはただ静かに壁にもたれて座っていた。
「メシ持ってきた。副隊長の俺がわざわざ運んでやってんだ。感謝しろよな?」
そう言って躊躇なく牢の中へと足を踏み入れたアルヴァーは、目の前の光景を見るや大げさなまでにため息を吐き出した。
「ったく……。もう三日だぞ? メシぐらい食わねーと、本当に死んじまうぞ」
半日前に運んできたはずの食事が、まったくの手つかずのままローテーブルの上に放置されていた。
完全に冷めきってしまった食事は、表面が乾いて皿にこびりつき、油分が分離してしまっている。
「ここから出してやれなくて悪いな。本部の連中がうるせぇんだ」
アルヴァーはエルザの目の前にしゃがみ込みながら、赤毛の後頭部を乱暴に掻いた。
――『保護』なんて言っといて、これじゃ『捕縛』と変わんねぇよな……。
ちら、と見遣ったエルザの手足にはめられた枷が、冷たい色をして鈍く光っていた。
本部への体裁上、東支部は彼女を拘束せざるを得ない。
それを頭では理解していても、感情が反発していた。
「……お前、こんな扱いされて、くやしくないのかよ」
エルザはピクリとも動かない。
重い鎖につながれたまま、彼女はうつろな瞳にぼんやりと地面を映すばかりである。
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