第45話 最重要参考人

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 返事はない。  鉄格子の向こうの横顔は、アルヴァーが来たことなど気づいてもいない様子でピクリとも動かない。  乱れた髪も、汚れた手足も衣服もそのままに、エルザはただ静かに壁にもたれて座っていた。 「メシ持ってきた。副隊長の俺がわざわざ運んでやってんだ。感謝しろよな?」  そう言って躊躇なく牢の中へと足を踏み入れたアルヴァーは、目の前の光景を見るや大げさなまでにため息を吐き出した。 「ったく……。もう三日だぞ? メシぐらい食わねーと、本当に死んじまうぞ」  半日前に運んできたはずの食事が、まったくの手つかずのままローテーブルの上に放置されていた。  完全に冷めきってしまった食事は、表面が乾いて皿にこびりつき、油分が分離してしまっている。 「ここから出してやれなくて悪いな。本部の連中がうるせぇんだ」  アルヴァーはエルザの目の前にしゃがみ込みながら、赤毛の後頭部を乱暴に掻いた。 ――『保護』なんて言っといて、これじゃ『捕縛』と変わんねぇよな……。  ちら、と見遣ったエルザの手足にはめられた枷が、冷たい色をして鈍く光っていた。  本部への体裁上、(イースト)支部は彼女を拘束せざるを得ない。  それを頭では理解していても、感情が反発していた。 「……お前、こんな扱いされて、くやしくないのかよ」  エルザはピクリとも動かない。  重い鎖につながれたまま、彼女はうつろな瞳にぼんやりと地面を映すばかりである。
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