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軽口をたたきながら昇降機を降りた二人は、まっすぐにエルザの収容されている牢へと足を向けた。
人払いされた地下牢は、シン……、と静まり返っている。
どこかでネズミでも駆けずり回っているのか、小さな足音が暗がりのほうから大きく反響していた。
「エルザ、調子はどう?」
片膝をつき、ルティスは鉄格子の向こうへと声をかける。
だがやはりエルザに反応はない。
意思のない瞳をぼんやりとひらいたまま、彼女はただ目の前の地面を視界に映しているだけだった。
だがルティスは、そんなエルザの様子に落胆するわけでもなく、ひとつ息をついて再び口をひらいた。
「きみに、知らせておきたい情報がある。これはまだ、本部にも報告していない案件だ」わずかに声のトーンを落としてルティスが言う。
「ヴァンパイアの棲みかを、発見した」
それは、本部に向かう直前に入手したばかりの情報だった。
彼はあえてその情報を本部へは報告しなかったのである。
ヴァンパイアの首と引き換えに、エルザの無罪を勝ち取るために。
「十日後、東支部で討伐に出る」
討伐任務から帰還した隊員からの報告に、ルティスが自分の耳を疑ったのは記憶に新しい。
逃げた手負いのグールのあとをつけた隊員は、あわよくばグールの棲みかを発見できればと考えていた。棲みかさえ判明すれば、敵を一網打尽にすることも可能だと思ったからだ。
そんな彼の目の前に現れたのは、ひどく廃れた古城である。
城門の前に、男がいた。
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