26人が本棚に入れています
本棚に追加
グレーの髪をオールバックにまとめ、ステッキを手にした男は不敵に口元をゆがめている。
一見すればヒトと変わらぬ出で立ち。だが一般人がこんな場所にいるはずがない。
もとより、血に飢えたグールが向かってきているのだ。ヒトであれば、すぐにでもやつの餌食になってもおかしくはない。
しかし男は口元をゆがめたまま、微動だにすることなくグールを見ている。
隊員は飛び出したい気持ちをおさえながら、じっとその光景に目を凝らした。
次の瞬間、男は助けを求めるようにすがりついてきたグールの肉体を、その長く鋭利な爪で切り裂いた。
そうして無造作に、指先に付着した血をゆっくりと舐め取った。
ひどく狂気的な目が、妖しくきらめく。
男は肉塊を一瞥すると、霧にまぎれて城内に姿を消したのだという。
ルティスがひととおり話し終えたあと、地下は沈黙に包まれた。
地上からのすきま風が、地下牢に気味の悪い音を奏でる。
「……ふふっ」
「「っ!?」」
いままでなんの反応も示さなかったエルザが、ゆっくりと首をもたげた。
気だるげに頭を上げた彼女は、まっすぐにルティスとアルヴァーを仰ぎ見る。
その瞳は獲物を見つけたときのように爛々と輝き、乾燥した唇が小さく弧をえがく。
最初のコメントを投稿しよう!