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「……っ、……ぁ……」
エルザの舌が、顎の輪郭に沿ってこぼれ落ちる鮮血を舐め取る。
恍惚とした表情を浮かべながら、彼女は滴り落ちる血を追いかけた。
薄くひらいたギルベルトの唇に舌を這わし、貪るように自身のそれを重ね合わせる。
血と唾液が混ざりあい、辺りに響くのは濡れた水音とエルザの吐息だけ。
「くっ……!」
まるで口づけを交わしているかのような光景が、ルティスとアルヴァーの目の前で繰り広げられる。
目を背けたくともそうできない現状に、ルティスの奥歯が嫌な音を立てた。
それを知ってか知らずか、ギルベルトはなす術のないルティスを一瞥してわずかに口角を上げると、自身もまぶたを閉じ、ねっとりとエルザの唇を堪能する。
「……、んっ……」
赤く染まった銀糸が、ぷつり、と切れる。
ランプの光を反射した唇が、しっとりと濡れていた。
「エルザ、俺がわかる?」
再度彼女の顔を覗きこみ、ギルベルトはやわらかい声色で問いかけた。
絡みあった視線の間には憎悪や殺意などはなく、鮮やかなアメシストがギルベルトの姿を映していた。
「……ぎ、る……?」
「迎えに来たよ。一緒に帰ろう?」
おそるおそる、小さく名を紡いだエルザに、ギルベルトはふわりと微笑みかける。
エルザは色を取り戻した瞳を見開いて、同時に大きく息を吸いこんだ。
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