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足を止めども振り向かないギルベルトに代わってあきれ顔でため息をついたのは、アリシアとダグラスだった。
「あなた方、動けないくせになに言ってるんですの?」
「大事なやつだと言うなら、なぜこんな真似をする」
返す言葉もなかった。
不本意とはいえ、エルザを罪人のように拘束していたことは事実である。
そして今現在、指一本さえ動かすことができぬのもまた然り。
ルティスとアルヴァーには、この状況を打開する術も案も尽きていた。
「きみたちに危害を加えるつもりはないよ」
両者にらみ合ったままの沈黙を破ったのは、ほかの誰でもないギルベルト本人だった。
エルザに語りかけていた声色とはほど遠い、氷のように冷徹な声が空気を裂く。
「俺たちは、お姫さまを迎えに来ただけだから」
ゆっくりと振り返ったギルベルトは、牙を見せて笑っていた。
どこからか立ちこめた霧が、彼らの姿を隠していく。
ぼかされていく人影は、深い霧の中に消えていった。
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