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引き寄せられるままに重なる唇の熱と、口内に広がる鉄の味。
絡み合う舌に血と唾液が混ざりあい、小さな水音を奏でる。
「んぅ……」
いつしか血の味もしなくなり、エルザの唇はただ求められるがままにギルベルトの舌に翻弄されていた。
深いところまで迫るギルベルトに抱き寄せられ、口内にあふれる互いの唾液に、エルザの喉が無意識に何度めかの上下を繰り返した。
「ふふっ、ごちそうさまでした♡」
リップ音を響かせて離れた唇をぺろりと舐めて、ギルベルトは満面の笑みを浮かべている。
舌先の傷はすでにふさがっていて、痕ひとつ残ってはいない。
「……なんで、口移しなのよ……」
「えー、だってここからじゃ嫌がるでしょ? エルザとチューできるし、俺的には一石二鳥ー♪」
そう言いながら白いシャツの襟を広げて見せたギルベルトの首筋には、ふたつ並んだ小さな傷があった。
まだ真新しいそれは、クルースニクから連れ帰ったその日の晩に、ギルベルトが強引にエルザに噛ませたものだった。
「いくらおなか空いてたからって、もうグールの血なんか飲んじゃだめだよ? ヴァンパイアならまだしも、ヒトの血はグールに勝てないんだから」
頬をなでるギルベルトの指先が、お仕置きとばかりに小さくエルザの口の端をつまむ。
「俺ほんっとーに焦ったんだから。あのまま手遅れになってたら、エルザ、グールになってたんだからね」
救出した彼女の体は、ギルベルトが思っていた以上にひどく衰弱していた。
失踪中、空腹のあまり口にしたグールの血が、エルザの体をむしばんでいたのである。
しかし彼女の中に流れるヴァンパイアの力がそれに抵抗していたため、かろうじて最悪の事態は免れたと言っていい。
「ヴァンパイアの血に自浄作用があるなんて知らなかったわ」
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