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「教えてなかった俺も悪いけど、まさかエルザがグールに噛みつくなんて思ってなかったからねー。まぁでもその自浄作用のおかげで、俺もダグもグールに噛みついても平気ってわけ」
つねられた頬をさすりながら、エルザは肩をすくめるギルベルトを見遣った。
エルザが自我を取り戻せたのは、彼がとっさに自身の血をエルザに与えたおかげである。
ギルベルトの思惑どおり、彼女の体内は少しずつ浄化されてきていた。
だが一方で、彼の首筋に噛みついて血をすすることをエルザが拒否したのである。
背に腹は代えられぬことではあるが、彼女にとってはどうしてもその行為自体が嫌だった。
しかもダンピールであるエルザがつけた傷ともなれば、治癒力の高いギルベルトといえども傷の治りは遅い。
そこで打開案として彼が提案したのが、今の方法である。
ギルベルトいわく、口移しであれば血と一緒に唾液も口にすることになるためエルザのヴァンパイアの力も強まる。そうすれば、浄化のスピードも早まるかもしれない、らしい。
今にして思えば、うまいこと丸めこまれたような気がしないでもないが、そこはもうあえてなにも言うまい。
「ほらエルザ、おそろそろティータイムにしよ!」
「お姉さまぁぁああぁぁ!!」
「ちょ!? アリシアっ!?」
ギルベルトに手を引かれて立ち上がった瞬間、勢いよく部屋のドアがひらかれる。
駆け込んできたアリシアに飛びつかれ、エルザはおもわず背をのけぞらせた。
まだ体力の戻りきっていない体が、重心を支えきれずに仰向けに傾いていく。
「危ない」
「っ!? ……ダグ!」
背中から倒れることを覚悟したのもつかの間、エルザの体はアリシアごと背後のぬくもりに支えられていた。
頭上から降ってきた声に顔を上げれば、あきれ顔のダグラスが小さくため息をついていた。
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