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その日の夜。ディナーを終え、みんなで二階のダイニングルームで団らんを楽しんでいたときである。
コーヒーを用意していたダグラスが、おもむろにギルベルトに声をかけた。
「そろそろ、エルザに話してやってもいいんじゃないか?」
ギルベルトの表情に、ふっ、と影が落ちる。
名指しされたエルザは何事かと案じつつも、ただならぬなにかを感じたようで黙って彼の言葉を待った。
「……お兄さま」
「うん、わかってる」
妹に促され、ギルベルトは深々と、息をひとつ吐き出した。
そうしてまっすぐに、正面のエルザに視線を向ける。
「エルザ、落ち着いて聞いてほしいんだけど」
そこに、いつものふざけた雰囲気はない。
刺すように静まり返る空気に、エルザは静かにうなづく。
「…………ベルンハルド」
「えっ?」
しばしの沈黙のあと、ギルベルトが意を決したように口をひらく。
静寂の中、彼の言葉だけが、やけに鼓膜に反響する。
つぶやかれたのは人の名前だろうか。
しかしエルザには聞き覚えがない。
「公爵ベルンハルド卿。エルザの捜している、あのヴァンパイアの名前だよ」
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