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第50話 ベルンハルド
ギルベルトの父は純血種のヴァンパイアであった。
彼は深い森の中に居城を構え、この辺り一帯に広大な領地を有していた。
数多のグールはもちろんのこと、ヴァンパイアさえも従えるほどに強大な力を持っていた彼の名は、ヴァンパイアの中ではずいぶんと有名だったらしい。
彼はヴァンパイアに似つかわしくなく非常にヒト当たりのいい、穏やかな人物であった。
好んでヒトの血肉を喰らうことはなく、逆にヒトとの共存を図り、積極的にヒトのコミュニティに参加していた。
一方で、それを快く思わない者もいる。
あくまでもヒトはヴァンパイアの糧であり、捕食者であるヴァンパイアは彼らよりも上位種である、と。
城へ出入りする数少ないヴァンパイアの中にも、そういった考えの者もいたことだろう。
だが領主の行動や信念に不満はあれど、力ある領主にかなうはずもない。表面上だけでも取り繕っていたのは保身のためである。
しかしながら、不満を持つ連中の一人がついに行動を起こしたのである。
その男は長い年月をかけ、領主を陥れるため入念に計画を進行させていた。
言葉巧みに領主の妻をたぶらかし、ついには肉体関係をもつようになったのである。
元来ヒトの生き血を好物としていた彼女はいともたやすく夫を裏切り、考えを同じくするその男にあっさりと乗り換えたのだった。
「あなた、少しよろしいかしら?」
「ダニエラか? どうした?」
ある日、領主の妻ダニエラは夫の寝室を訪れた。
ちょうど就寝しようとしていた男は、上体を半分起こしたまま返事をする。
自身の胸元にしなだれかかる妻の色香に、男は珍しいこともあるものだと思いながらもその腰を引き寄せた。
次の瞬間、彼の体に激痛が走る。
心臓が悲鳴を上げていた。
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