第50話 ベルンハルド

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「キャハハハハハッ!」  信じられなかった。  夫の上に馬乗りになったまま、ダニエラは狂ったように高笑いしている。  痛みを訴える心臓に、磨きあげられたナイフが突き刺さっていた。  心臓が焼けるようだった。否、実際に焼けているのかもしれない。  それはまぎれもなく、純銀製のナイフだった。 「ダ、ニエラっ……!? なに、を……!?」  ガードまで深く突き刺さったナイフは、肺をも貫いているらしい。  喉以外の場所から、空気の漏れるような異様な音がしていた。  いままで経験したことのないほどに、息を吸うのも吐くのも苦痛だった。  苦しさに絶え絶えになりながら目の前の女をにらみつければ、彼女は口角をつり上げる。  そして隠し持っていたもう一本のナイフを振りかざすと、恍惚とした表情を浮かべて夫であった男を見下ろした。 「油断は禁物よ。あ・な・た♡」  体が、思うように動かなかった。  両手を突き出してダニエラの動きを止められればよかったのだが、どういうわけか全身が鉛のように重たい。  振りかざされた刃は、容赦なく領主の肩を貫いた。  錆びた鉄のにおいと、肉の焼けるにおいが室内に充満する。 「ぅぐぅっ!!」 「領主ともあろうお方が、なんとも無様ですね」 「っ!? き、さま……!!」
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