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「キャハハハハハッ!」
信じられなかった。
夫の上に馬乗りになったまま、ダニエラは狂ったように高笑いしている。
痛みを訴える心臓に、磨きあげられたナイフが突き刺さっていた。
心臓が焼けるようだった。否、実際に焼けているのかもしれない。
それはまぎれもなく、純銀製のナイフだった。
「ダ、ニエラっ……!? なに、を……!?」
ガードまで深く突き刺さったナイフは、肺をも貫いているらしい。
喉以外の場所から、空気の漏れるような異様な音がしていた。
いままで経験したことのないほどに、息を吸うのも吐くのも苦痛だった。
苦しさに絶え絶えになりながら目の前の女をにらみつければ、彼女は口角をつり上げる。
そして隠し持っていたもう一本のナイフを振りかざすと、恍惚とした表情を浮かべて夫であった男を見下ろした。
「油断は禁物よ。あ・な・た♡」
体が、思うように動かなかった。
両手を突き出してダニエラの動きを止められればよかったのだが、どういうわけか全身が鉛のように重たい。
振りかざされた刃は、容赦なく領主の肩を貫いた。
錆びた鉄のにおいと、肉の焼けるにおいが室内に充満する。
「ぅぐぅっ!!」
「領主ともあろうお方が、なんとも無様ですね」
「っ!? き、さま……!!」
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