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あざ笑うような声色とともに、一人の男が姿を見せる。
彼こそが、領主の妻をたぶらかし、その座を奪おうと画策していた男―若き日のベルンハルドであった。
ベッド脇に近寄った彼は、慣れた手つきで女の肩を抱き寄せる。
そうしてとろけるようなまなざしで見上げてくる女の唇を、慣れた行為だとばかりに貪る。
横目で領主の反応を愉しみながら、ベルンハルドはわざと水音を響かせてダニエラの口内を舌でかき乱した。
長く伸びた銀糸が切れると、ベルンハルドはこれ見よがしにモノクルの奥の目を細めてみせた。
「長年、あなたの食事や血清に微量の純銀を混ぜさせていただきました。一度の量は致死量にはとうてい届きません。ですが、それが何十年にも渡って摂取されつづければ、どうなるかおわかりになりますか?」
腰を揺らしながら指にしゃぶりつく女の胸を弄び、ベルンハルドはそう問う。
彼の言葉の意味を理解すると同時に、領主は耳を疑った。
生き血をすすることを好まなかった彼は、動物の濃い血液を凝固させた錠剤をベルンハルドに作らせていた。
そして毎日、それをいくつか飲むという生活を続けていた。
たとえひと粒に混入された銀が微量だったとしても、長い年月を経るとともにそれは体内に蓄積されていく。
そして今夜、純銀のナイフで体を貫かれたことで、相乗効果のようにそれは彼の肉体に影響をおよぼしたのだ。
どおりで、本来あるはずの回復力が働かないわけである。
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