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顔を上げたらしい彼は、言い出しにくそうに吐息に乗せて声を漏らした。
「あー……、バースデーパーティーの日に、本人からね」
その返答に、エルザは「そう……」とだけ短く相づちを打つ。
エルザとギルベルトの出会いは、あくまでも偶然によるもの。
そのことに少なからず安堵している自分を感じて、エルザは人知れず息をついた。
「本当はね、エルザに話すかどうかギリギリまで悩んでたんだ。だけどきみを連れ帰った以上責任は持たなきゃだし、なにより黙ってても、エルザは自分で突き止めちゃいそうだしさ。そうなった場合、エルザはまた一人で行こうとするでしょ? 俺には、それが怖かったんだ」
腹部に回されたギルベルトの腕が、けっして離さないとばかりにエルザの体を抱きしめる。
その手がわずかに震えているのはきっと気のせいではない。
エルザを失うことをもっとも恐れているギルベルトにとって、今回のことは相当堪えたらしい。
「……エルザ、なに考えてるの?」
ギルベルトのやわらかな声色が、すべてを見抜いているかのようにエルザの鼓膜を揺らした。
彼の問いかけにすぐに答えることができず、エルザはわずかに口をつぐむ。
言葉にすべきかどうか。
このままなにも聞かなかったことにして、黙っているほうがいいのか。
しかし彼の腕の強さが、それを許してくれそうもない。
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