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傷口は完全にふさがっているようだが、いかんせんダンピールに傷つけられたものだ。傷あとまではきれいに消えなかった。
着崩したシャツの襟から覗く傷あとに、後悔と申し訳ない思いが交差する。
エルザは彼のシャツをくしゃりと握りしめ、再度その場所にひたいを寄せた。
「ふふっ、エルザくすぐったい」
エルザの唇が、痛々しい傷あとをいたわるようになぞっていく。
こんなことで傷あとが消えるわけでもないことは百も承知。
それでも、淡い願いを込めずにはいられなかった。
「……傷、残っちゃったね」
彼に寄りかかったまま、エルザはその胸板に指先を這わせる。
頭上でギルベルトがくすくすと笑っていた。
「……エルザ、誘ってる?」
「まさか」
「嘘。こんなにあおっといて、ちゃんと責任取ってよね」
「あたし病みあがりなんですけど?」
覗きこんできた彼の瞳は、すでににわかに熱を帯びていた。
これは逃げられそうにない。
観念したように身を預ければ、待ってましたとばかりに抱きすくめられる。
「誘ってきたのはエルザだからね。俺、結構我慢してたんだから」
「ふふっ、お手柔らかにね」
密着する互いの体に、少しだけ鼓動が早くなった。
どちらからともなくまぶたを閉じる。
重ねられた唇の熱を冷ますように、夜風がふわりと二人のそばを通りすぎていった。
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