第51話 お手柔らかに

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 傷口は完全にふさがっているようだが、いかんせんダンピールに傷つけられたものだ。傷あとまではきれいに消えなかった。  着崩したシャツの襟から覗く傷あとに、後悔と申し訳ない思いが交差する。  エルザは彼のシャツをくしゃりと握りしめ、再度その場所にひたいを寄せた。 「ふふっ、エルザくすぐったい」  エルザの唇が、痛々しい傷あとをいたわるようになぞっていく。  こんなことで傷あとが消えるわけでもないことは百も承知。  それでも、淡い願いを込めずにはいられなかった。 「……傷、残っちゃったね」  彼に寄りかかったまま、エルザはその胸板に指先を這わせる。  頭上でギルベルトがくすくすと笑っていた。 「……エルザ、誘ってる?」 「まさか」 「嘘。こんなにあおっといて、ちゃんと責任取ってよね」 「あたし病みあがりなんですけど?」  覗きこんできた彼の瞳は、すでににわかに熱を帯びていた。  これは逃げられそうにない。  観念したように身を預ければ、待ってましたとばかりに抱きすくめられる。 「誘ってきたのはエルザだからね。俺、結構我慢してたんだから」 「ふふっ、お手柔らかにね」  密着する互いの体に、少しだけ鼓動が早くなった。  どちらからともなくまぶたを閉じる。  重ねられた唇の熱を冷ますように、夜風がふわりと二人のそばを通りすぎていった。
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