第1話 『はい』は一回

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 なおもなにか言いつのろうとするアルヴァーにあきれながら、エルザは肺に入れた紫煙を深々としたため息と一緒に吐き出す。  白い煙が、ふわっ、とアルヴァーの眼前に広がった。 「一人のほうが、都合がいいときだってあるのよ」 「げほっ、つるむつるまないの問題じゃない! 要はチームワークだっつってんだろーが!!」  自身はひと口だって吸えないタバコの苦い煙にむせながらも、アルヴァーは右足を一歩踏み出してエルザに詰め寄った。  何度言っても聞く耳を持たれないが、それでもめげずに彼女に言い聞かせる。  一方でエルザは、アルヴァーの小言をうんざりとした気持ちで聞いていた。ソファの背もたれに体を預けて、木目調の天井を仰ぎ見る。 「隊長が黙認してんだからいいじゃない」 「いいや! そういう問題じゃない! お前が自覚するまで、俺は何回でも何十回でも言ってやるからな!」  そう言ってアルヴァーは、エルザの前にあるローテーブルに勢いよく両手をついた。振動で、テーブルに置いたエルザの携帯灰皿が、カタン、と音を立てる。 ――はぁ、めんどくさい男ねぇ。  たしかにエルザ自身、組織というものに属していながら単独行動ばかりしている自覚はある。だがなんだかんだ、うまいことやってこれているのも事実だ。これまでも成果を上げこそすれ、団体に不利益をもたらしたことはないと自負している。 「はいはい、これだから現場を知らない坊っちゃんは」 「坊っちゃん言うな!」  吠えるアルヴァーを尻目に、エルザは携帯灰皿を手に取り短くなったタバコの先端を押しつけた。  制服の胸ポケットにそれをしまい、ため息をつきながらゆっくりと立ち上がる。スカートの上に舞い落ちたわずかな燃えカスを、エルザは細い指先でパタパタとはたいた。 「こら! まだ話は終わってないぞ!」  エルザが帰ろうとしていることを察知して、アルヴァーはすかさず彼女の肩に手を伸ばした。  だが彼の手が届く前に、エルザはうっとうしいといわんばかりにアルヴァーのつり目気味なエメラルド色をにらみつける。そしておもむろに、わずかに膝を曲げて腰を落とした。
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