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次の瞬間、アルヴァーの顔面に向かって勢いよく右足が蹴り上げられる。
「っ!?」
黒い革のブーツが風を切る。
風圧でアルヴァーの前髪が揺れる。
エルザの足はしなやかな動きで、彼の鼻先寸前でピタリ、と止まった。
反射的に息をつまらせたアルヴァーに、エルザは勝ち誇ったように笑みを浮かべてみせる。
「本部で幹部やってる父親のおかげで、楽できるものねぇ、坊っちゃん?」
「いいいいいいまはそれ関係ねーだろ!!」
微動だにできぬまま懲りずに反論するアルヴァーだが、どういうわけか視線が不自然に泳いでいる。
蹴り上げたままの足の向こうで顔を赤くしているアルヴァーを、エルザは眉間にしわを寄せて訝しんだ。
「あんた、なに赤くなってんのよ」
「べべべ、別に!? 赤くなんてなってねーよ!」
そうは言いつつも、アルヴァーはエルザから視線をそらしたままである。
「……なんだってのよ、気持ち悪いわね」
「んなっ!?」
「二人とも、またやってるのかい?」
「「ルティス!」」
アルヴァーの不審な挙動に眉根を寄せていれば、静かにひらいたドアからルティス・ブロムダールがあきれたように声をかけてきた。
襟のラインは金が二本、言わずもがな東支部の隊長である。
つい先ほど部下から受け取ったばかりの報告書に目を通しながら、彼はうなじの上でひとつにまとめた淡い水色の髪を揺らしつつ、なに食わぬ顔で二人の横を通りすぎた。
そのままアルヴァーの背後にある執務机につくと、ルティスはエルザに向かってふわりと微笑んでみせる。
「……エルザ」
「なに?」
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