第2話 昼番終業五分前

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 『グール』とは、ヴァンパイアのなりそこないとも、ヒトのなりそこないともいわれる異形の生物である。  理性はほとんどなく、本能的な衝動のままに行動する性質があるが、知性があるぶん、たちが悪い。  やつらは月明かりの乏しい真夜中を好んで活発に活動し、ヒトや家畜を喰い荒らすのだ。太陽光に当たればその肉体はたちまち灰と化してしまうため、昼間は廃墟や森、地下の暗がりにひそんでいることが多い。  日中そうした場所に近づき、思いもよらずグールに襲われ喰われた、というのはよくある話だった。 「チームメイトは誰でもいいよ。なんだったらそこのアルヴァーを連れて行っても」 「一人でいいわ」  ルティスにファイルを突き返して、エルザは今度こそきびすを返した。  少々乱暴に閉まったドアには目もくれず、彼女は颯爽とその場をあとにする。  廊下に響く足音が遠のいていくのを、アルヴァーとルティスは黙って聞いていた。 「よかったのかよ。一人で行かせて」  エルザの足音が完全に聞こえなくなったところで、アルヴァーはちらりとルティスを見た。  エルザの出ていったドアを見つめるルティスは、相変わらず微笑みを浮かべたままである。 「彼女がそれをご所望だからね」  その言葉に、アルヴァーは小さくため息をついた。 「お前がそんなんだから、いつまでたってもあいつは他人を頼ろうとしないんだよ」 「仕方ないよ、こればっかりは……」ルティスが眉を下げて言う。 「僕らがいくら言ったところで、彼女がであるという事実は変わらないし、受けてきた差別が消えるわけじゃない」
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