21人が本棚に入れています
本棚に追加
『グール』とは、ヴァンパイアのなりそこないとも、ヒトのなりそこないともいわれる異形の生物である。
理性はほとんどなく、本能的な衝動のままに行動する性質があるが、知性があるぶん、たちが悪い。
やつらは月明かりの乏しい真夜中を好んで活発に活動し、ヒトや家畜を喰い荒らすのだ。太陽光に当たればその肉体はたちまち灰と化してしまうため、昼間は廃墟や森、地下の暗がりにひそんでいることが多い。
日中そうした場所に近づき、思いもよらずグールに襲われ喰われた、というのはよくある話だった。
「チームメイトは誰でもいいよ。なんだったらそこのアルヴァーを連れて行っても」
「一人でいいわ」
ルティスにファイルを突き返して、エルザは今度こそきびすを返した。
少々乱暴に閉まったドアには目もくれず、彼女は颯爽とその場をあとにする。
廊下に響く足音が遠のいていくのを、アルヴァーとルティスは黙って聞いていた。
「よかったのかよ。一人で行かせて」
エルザの足音が完全に聞こえなくなったところで、アルヴァーはちらりとルティスを見た。
エルザの出ていったドアを見つめるルティスは、相変わらず微笑みを浮かべたままである。
「彼女がそれをご所望だからね」
その言葉に、アルヴァーは小さくため息をついた。
「お前がそんなんだから、いつまでたってもあいつは他人を頼ろうとしないんだよ」
「仕方ないよ、こればっかりは……」ルティスが眉を下げて言う。
「僕らがいくら言ったところで、彼女がダンピールであるという事実は変わらないし、受けてきた差別が消えるわけじゃない」
最初のコメントを投稿しよう!