第2話 昼番終業五分前

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 ルティスの言葉に、アルヴァーは居心地が悪そうに視線を落とした。  エルザ・バルテルスは、正確に言えば『ヒト』ではない。  ヒトとヴァンパイアの間に生まれた異端児―『ダンピール』である。  通常ダンピールとして生まれた者は、その身に流れる強すぎるヴァンパイアの遺伝子に肉体が耐えきれず、幼くして死んでしまう。  だがごくまれに、すべてが順応し成長するものがいる。  それがエルザだった。  姿はヒトとなんら変わらない。生き血をすするヴァンパイアとは違い、好きこのんで吸血行動などしない。  しかしながら、半分はヴァンパイアであることもまた事実である。いつその血に飲みこまれ、ヒトとしての理性を失うかわからない。  実際過去には、ダンピールと思われる幼子が暴走の果てに両親を喰い殺した事例がある。  ダンピールの出生率および生存率は極めて低いものであり、このような事案は非常に稀有なことではあるが、前例がある以上ヒトはそれを無視することはできない。  だからこそ、ダンピールはクルースニクによって保護および監視対象とされている。  エルザが団体に属しているのは本人の意志だが、やはりそれを快く思わない者は少なくない。 「とはいえ、同期である僕らのことは、もうちょっと頼ってほしいとは思うけどね」 「そらみろ。お前も思ってんじゃねぇか」  視線を上げたアルヴァーは、小さくため息をついた。 「あいつを慕ってる隊員も、結構いるんだけどな」  アルヴァーのつぶやきに、ルティスは「そうだね」と小さく相づちを打つ。  エルザの身体能力と戦闘センス、判断力に裏打ちされた実績を認めている者は多い。彼女自身がそれを受け入れないだけで。 「心の傷は、そう簡単には消えないものだよ、アルヴァー」 「……そういうもんかね」  微笑みを浮かべたままのルティスをちらりと盗み見て、アルヴァーは天井に向かって深々と息を吐き出した。
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