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「エルザさん、もうすぐ目的の町に着きますよ」
御者の言葉に、エルザは伏せていたまぶたを上げる。団体所有の馬車に長時間揺られていたせいか、少々腰が痛い。
車窓の景色に視線を移せば、外はすっかり夜の帳に包まれていた。
「……もう夜中じゃない」
支部を出発したときにはすでに陽もだいぶ傾いていたので、当然といえば当然なのだが。本当ならいまごろ、ほろ酔い気分で心地よく睡魔に身をゆだねているはずだったのだ。
――それもこれも、全部アルヴァーのせいよ。
支部に戻ったらとりあえず八つ当たりしてやろうと、エルザはひそかに胸に誓う。
「ここでいいわ」
「え、ですが……」
エルザの言葉に、御者をつとめる隊員は困惑した表情を浮かべる。
目的地まではあともう少し。にもかかわらず、エルザは馬車を止めるように指示をしたのである。
「万が一でもあって帰りの足がなくなったら困るのよ。いいからあんたは、さっきの町まで引き返して。陽が昇ったらここで合流。いいわね?」
そう言って、エルザは拳銃の弾倉を確認して、腰にサーベルを装着した。
クルースニクではその任務の特性上、全隊員に本部から武器の支給がある。
エルザの腰にぶら下がるサーベルも、太もものホルスターに携帯した銃も弾丸も、入隊と同時に支給されたものだった。
そしてそれらの武器は当然、ブーツのヒールと同じ銀製である。
しかしこのご時世、銀製品は高級品の部類に入る。希少性も高く、市場に出回ることはほとんどない。
それをわざわざ買い占めてまで支給品に使用しているのには、相応の理由があってのことである。
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