STORY 1

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「今はなにをしてるんだ?」 追い出された。困り果てて彼に電話をしていた。しかし、そう言えば心配をさせてしまう。冷静になればスマホがあればタクシーも呼べるし、ホテルも泊まれるだろう。 「大丈夫です」 「答えになってない」 何をしているという問いに、大丈夫という答えは、確かに間違っている。 「沙織」 鋭く問われ、私は静かに「外にいます」そう答えた。 「すぐに行く」 陸翔兄さまならそう言ってくるのはわかっていた、でも、彼には妻がいるはずだ。私のために動いてもらうのはよくない。 「あの、本当に急にごめんなさい。大丈夫だから」 「動くな」 言い掛けた私の言葉を遮り、それだけを言われて、電話は切られていた。 「頼る人……間違えたな……」 六歳年上の彼には、ずっと付き合って婚約していた女性がいた。兄と呼ぶのも私と彼の距離を取るためにした、私自身のけじめでもあった。 そう、陸翔兄さまは私の恋焦がれていた人だ。報われない気持ちから、逃げたくて芳也の明るさに縋った。芳也といて、彼のことは忘れたし、もう気持ちはないと思っていた。
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