STORY 1

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STORY 1

どうしてこんなことになったのだろう。 自分の本当の気持ちから逃げたからだろうか。 それでも、付き合い、結婚をしていたこの数年、私は彼を愛していたし、大切にしていた。 でも……。 「離婚して」 その言葉を自分からいう日が来るなんて。 地位や名誉を手に入れると同時に、優しさを失うのは仕方がないのだろうか。 そんな私の言葉を、となりにいる女性が心の中で喜んでいたとしても、私はもうどうでもいい。 私は幸せになる権利などないのだから。 忘れたいのに、心に居続けるあなたを思う私の罰なのだから… ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「食事は?」 「いらない。食べてきた」 ちらりと壁に掛けられた高級なアンティーク時計に視線を向けると、針はすでに23時を回っていた。 広々としたリビングは、落ち着いた間接照明に照らされ、天井の高い大きな一軒家ならではの静けさが漂っている。フローリングの床には毛足の長い高級なカーペットが敷かれ、ソファは柔らかそうなレザー張りで、上質さを感じさせる。 「会食だったの?」
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