560人が本棚に入れています
本棚に追加
STORY 1
どうしてこんなことになったのだろう。
自分の本当の気持ちから逃げたからだろうか。
それでも、付き合い、結婚をしていたこの数年、私は彼を愛していたし、大切にしていた。
でも……。
「離婚して」
その言葉を自分からいう日が来るなんて。
地位や名誉を手に入れると同時に、優しさを失うのは仕方がないのだろうか。
そんな私の言葉を、となりにいる女性が心の中で喜んでいたとしても、私はもうどうでもいい。
私は幸せになる権利などないのだから。
忘れたいのに、心に居続けるあなたを思う私の罰なのだから…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「食事は?」
「いらない。食べてきた」
ちらりと壁に掛けられた高級なアンティーク時計に視線を向けると、針はすでに23時を回っていた。
広々としたリビングは、落ち着いた間接照明に照らされ、天井の高い大きな一軒家ならではの静けさが漂っている。フローリングの床には毛足の長い高級なカーペットが敷かれ、ソファは柔らかそうなレザー張りで、上質さを感じさせる。
「会食だったの?」
最初のコメントを投稿しよう!