STORY 1

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11月も半ば、夜風は冷たい。都内でも比較的住宅街にある私たちの家の周りは、数人の人が歩いていた。 そんな中、なにも持たず、薄手のワンピースに素足にサンダル。先ほど叩かれた頬はじんじんと痛み、涙が零れていた。 そんな私を訝し気な視線を向けて通り過ぎてく。普通ならば恥ずかしいと思えるはずだが、先ほどのことがあまりにもひどくて、そんな余裕もない。 「ねえ、あなた、なにかあったの? 警察に……」 親切心だろう、五十代ぐらいの女性の声に、私は慌てて首を振る。 「大丈夫です」 「でも、あなた……」 警察沙汰になれば、両親にも迷惑が掛かってしまう。 だれか助けてーー。 冷静な判断ができない私は、スマホの一番は初めに出てきた「秋元陸翔」の名前を見つめ通話ボタンを押していた。 一番掛けてはいけない人だとすぐに悟り、切ろうとした時、「沙織か?」もう何年も聞いていない声が聞こえた。 その声にホッとしてしまって、通話を切ることできなかった。
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