STORY 1

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私は、部屋着のまま尋ねる。夫は、つい先ほど帰宅したばかりで、スーツ姿のままネクタイも外さず、少し疲れた様子だ。 彼は最近IT企業を立ち上げ、軌道に乗り始めたところで、会食の機会が非常に多い。私は視線をそらしつつ問いかけた。 「ああ」 リビングの奥には豪華なダイニングテーブルがあり、私たちはいつもそこに並んで食事をしていた。だが、最近は夫から夕食がいるかどうかの連絡すら来なくなってしまった。 作っていた食事を冷蔵庫にしまうために、キッチンへと向かう。 どれくらい経っただろうか、このすれ違いが始まってから。 「今日の仕事はうまくいった?」 少しでもこの関係を修復したくて、明るい声で私は尋ねた。 「お前なんかに話をしてわかるのか?」 しかし、夫はバカにしたように鼻で笑い、冷たい声音で返してくる。その一言が胸に刺さり、私は無意識にキュッと唇を噛みしめた。 結婚してわずか一年半で、こうも夫婦の関係が変わってしまうものなのだろうか。 私、神崎 沙織と夫である佐橋芳也は大学の時から付き合い、卒業後一年で結婚をした。 だから、今私は佐橋沙織になっている。
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