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でも、結局こうなった今、私は彼に電話をしてしまった。
芳也のことを責められないじゃない。私も最低だーー。
そんな気持ちのまま、私はスマホをギュッと握りしめた。
数十分後、陸翔兄さまの車が私の前に到着した。彼は車を降り、優しい笑みを浮かべていた。数年ぶりに会う彼は、記憶の中より数段大人になっていた。昔から整った造形をしていたが、かわいらしい、そんな形容をされることの方が多かった。しかし、今は端整な顔立ちは知的でどこからどうみても、できる人という印象だ。
父が見込み、右腕として信頼をしているぐらいの実力を兼ね備えているのだから当たり前か……。
隣で運転する彼を盗み見て、私は視線を逸らすと窓の外を見た。
「ごめんなさい、どこかホテルに下ろしてもらっていいですか?」
信号が赤になったタイミングで私がそう言うと、彼が私の全身に視線を向けた。
「お前、もしかして手ぶらか?」
その声音には驚きと、怒りが滲んでいた。
「はい」
「喧嘩ってどんな喧嘩をしたんだ? お前、その頬どうしたんだ!」
さっき手を上げられたことをすっかり忘れていたが、頬が赤くなっているのだろう。
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