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すこしふざけて言った私を、芳也はギュッと抱きしめた。
「ねえ、ここ外、外!!」
「じゃあ、早く家に帰ろう」
そう言いながら、小さな1Rのアパートへと急ぐ。玄関から見渡せる全ての空間は決して広くはない。窓際には、小さな観葉植物が並び、それもまた二人で一緒に育てている大切なものだった。
「これ、ちょっと塩が多かったかも」
私は夕食を準備しながら、キッチンとテーブルの間を忙しく行き来する。芳也はそんな私を笑顔で見守りながら、勉強をしていた。
「沙織の料理はいつもうまいし大丈夫だよ」と笑ってくれる。。
彼が起業したいという夢をかなえるために、あの頃の私はできる限りのサポートをしてきた。
「これうまい。本当に沙織は料理もできるし、最高の奥さんになるよ」
遅くまで勉強をする芳也の背中を見つめながら、小さなシングルベッドで目を閉じる。そんな日々が幸せだった。
燃えるような恋かと聞かれたら、それは違ったが、いつか家族愛になり生きていける、そう思っていた。
そんな昔をつい思い出してしまっていた私は、小さく息を吐いた。
「食事作らなくていいっていただろ? これ見よがしにため息ついて、俺に対する嫌味か?」
「そんなわけないでしょ? 私はただ自分のすべきことを」
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