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「あ、えっと」
「この姿でご主人様にお会いするのを、心待ちにしておりました。ワタクシはご主人様に救われた魔法剣エクスでございます!」
艶やかな真珠にも似た光沢の銀の髪は、魔法剣の刀身に見えなくはない。瞳の色は鞘の紫の宝石そのもののよう……つまり昔話に見られる鶴の恩返し的なパターン!?
「え、エクスなの?」
「はい! 前回の魔導書ではお役に立てず、申し訳ありませんでした! いつもキャリバーばかり愛用していて腹立たしかったですが『今回こそお役に立ってみせる!」と飛び出しましたら、ご主人様の額にキスをしてしまい……ポッ」
「額?」
ふと思い返すのは、額に何か当たった結果、家守りたちの手が届かなかったことだ。吹き飛ばされた私は屋敷内から出てしまったのだろう。そしてその結果、馬車に連れ込まれて……って、今のこの状況の原因って魔法剣のせいじゃん!
なんか頭が痛くなってきた。
「いろいろ言いたいことはあるけれど、助けてくれてありがとう。……エクスならここから脱出できる?」
「はい、勿論でございます。……と言いたいのですが、私はもともと剣のサイズだったので、開いた窓から物理的に出る方法です」
「あ、うん……。物理的に私の体は……無理ね」
「はい。ご主人様の現在のサイズ感のままですと難しいかと」
「そっか……。ん? 今のサイズ感のままじゃ無理ってことね」
「はい。しかし一つだけ方法があります」
「聞くわ」
***
その馬車は妖精馬で御者も下級妖精のため、簡単な命令だけしか受付できないらしい。馬車内で元夫が倒れても馬車を走らせたのは、目的地まで届けろというシンプルな命令だけだったから──らしい。それを利用して、窓からの脱出。
そのことに気づこうが気づかないだろうが、下級妖精は目的の場所に向かうことしか命じられていないのでスルー。使い魔にもよるらしいけれど、知能が低いと応用が効かないのが難点なのね。
そんなこんなで私は魔法都市ルートスにいるらしい。子猫の姿で!
エクスは私を大事に抱き抱えて、高級ホテルを手配。ここで人の姿に戻すかと思いきや猫のまま……。
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