3. 修羅場は突然に

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 顔色を変えた旦那様──フィリップ様を真っ直ぐに見据える。  あんなに美しくて知的だと思っていたけれど、ミハエル様や魔女様の美しさに比べたら全然だわ。凄みも足りない。今は顔を真っ赤にしたと思ったら、真っ青になって格好悪いったらないわ。でも手を緩めることなんてしませんわよ。 「フィリップ様。私を殺して愛人と暮らす計画は大幅に見直す必要があると思いますが、それよりもまずは教会に離縁申請を提出して、財産分与の手続きをしましょうか」 「なっ、は!? ヘレナ……な、なにを……。ああ、毒のせいで記憶が混濁しているんだね。私が君を殺そうとするなんて……」  青ざめながらも口元の笑みは保っていた。意外と肝が据わっているのかもしれない。 「あのワイングラスを私に渡すように指示をしたのは、フィリップ様でしょう? 執事がそう言って差し出したのよ。それに本来、乾杯をするなら夫婦である私の傍にいるはずなのに、フィリップ様は離れていた。これは自分が毒を盛ったという容疑から外れるために、距離を取っていたのでしょう」 「それは執事が嘘をついているだけじゃないか。決定的な証拠にはならない。……ヘレナ、君は今回のパーティーのために働き詰めだったと聞いている。だから毒で倒れた時にありもしないことを耳にしたんだ。そうに違いない! そうだろう、ヘレナ!」  必死で言い逃れをしようとしているフィリップ様に、私は魔女様を見つめた。従魔契約をしたからか、確実な証拠を押さえるために良さそうな魔法が脳裏に浮かぶ。今まで魔法に縁遠かったのに、こんなこともできるのね。魔女様って凄いわ。  私を殺そうとしたフィリップ様が怖いけれど、でもここで決着を付けるべきだわ。法廷に持ち込むまでもない。変に時間と追い詰めすぎると何をするか分からないって、前世のトラブル板に書いてあったもの。
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