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「魔女様」
「あら♪ 何かしら?」
「魔女様であれば、私の網膜に焼き付いた記憶の再現ができますよね」
「は?」
「あ、なるほど」
「ええ、可能よ♪」
「はああああああああああ!? いやいやいやなんだ、それは!? そんなことがまかり通るわけがない!」
フィリップ様は素っ頓狂な声を上げた。あら、知らなかったのね。それとも認めたくないだけかしら?
「まだ七十二時間経っていないし、数分であれば今すぐにでも再現してそれを記録しておくことだって可能よ。法廷の証拠としても許可されるわ。特に野良魔女の毒は毒を盛るときに耳元で殺す動機を話さないと発揮しないといけないのご存じでしょう?」
「──っそ、そんな魔法なんてあるわけが」
「魔女の魔法なら簡単よ」
「さすが魔女様ですわ」
「ではその再現魔法の代金は、教会側からの正式な証拠として申請を出しておきましょう」
「──っ、ヘレナ。これは違うんだ……私は……本当に心から君を愛している。君がいない生活なんて考えられない」
「あら二年も別居状態で、お飾りの妻だったのでしょう? 今さら愛を語るなんて遅すぎません」
「あっ……くっ、それは……」
私はできるだけ笑顔で微笑んだ。それをフィリップ様は都合よく解釈したのか、安堵して口元を緩めた。こんなに気持ち悪い笑みを浮かべる人だったかしら?
「今すぐ離縁の契約書にサインを頂けるのなら、大事にしませんわ。賢明なフィリップ様ならどうすべきか、おわかりでしょう」
「──なっ!?」
ミハエル様ほどではないけれど、にっこりと笑うだけで無言を貫いた。するとフィリップ様は面白いぐらいに顔を青ざめ、次に怒りに震えて茹でた海老のように真っ赤になった。忙しい方だわ。さっきから赤くなったり、青くなったり。
「それとも殺人未遂犯として、裁判沙汰になさいますか?」
「──っ!」
「裁判となると間違いなく国王陛下の耳にも入る。そうなると爵位も剥奪確実だし、時間もお金もかかるだろうね」
「な、なっ」
私の意図を理解したミハエル様も後押ししてくれた。この方は本当に頭の回転が速いし、空気を読むのが素晴らしく上手いわ。
フィリップ様も形勢が不利だと気づいたのか、悔しそうに顔を歪めて睨んできたが、全然怖くない。むしろお散歩を嫌がっている友人の秋田犬の顔を思い出したら、ちょっと笑いそうになった。それがフィリップ様の勘に触ったのか、「ああ、わかったよ!」と承諾した。
「──っ、君が望むのなら離縁しよう!」
「ありがとうございます。それと私への接近禁止をさせて頂く旨を、誓約書に書いてください。もちろん、私の悪評の吹聴した場合は慰謝料を追加で頂きますわ」
「──っ!」
フィリップ様、元夫は陥落。私の完全勝利だった。
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