4.決別とこれからカクテルのお披露目

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   銀色のシェーカー、混ざりにくい材料を混ぜて同時に冷たくする器具。メジャーカップ、材料を正確に計量するためのもの。バー・スプーン、材料を混ぜるために必要なスプーンもある。バー・ブレンダー。カクテル専門のパワフルなミキサーで、フローズンスタイルのカクテルを作るときやフレッシュジュース系はあると便利。  他にもミキシング・グラスにストレーナーもある。正直、ここまで揃っているとは思っていなかったわ。  長い灰緑色の髪を一つに束ねて、腕をまくった。準備万端。  魔女様とミハエル様はカウンター席にそれぞれ座る。 「それではどんなお酒を望みですか?」 「お任せで」 「じゃあ、私はノンアルコールのオススメで」  二人はカクテル作りで一番難しい注文をしてきた。ミハエル様はノンアルコールだからいいとして、魔女様はどのぐらいの度数のお酒を提供すべきか、好きなもの、嫌いあるいは飲めないものなどの情報がゼロの状態では、お客様の満足するものを導き出すのは難しい。 「一つだけ、アレルギーや飲んではいけない、嫌いなものなどのものはありますか?」 「私はないわ」 「アレルギーなどはありませんが、甘すぎるのは少し苦手ですね」 「承知しました」  まずはカクテルをご所望の魔女様の分だわ。  喉が渇いていたというので爽やかかつ飲みやすく、口当たりがよいもの。炭酸のサッパリした味わいは女性に人気のカクテル。そして魔女様はお洒落かつアルコール度数は低めにするなら──。 「お二人は『カクテル』について何かご存じでしょうか?」 「私はまったく。ただフィル殿の反応からして特別なお酒、というところでしょうか」 「特別も特別よ。なんたって異世界の飲み物なんだから」  手を動かしながら、バーテンダーとして仕事をしていた時を思い出しつつ語る。 「異世界──元私の世界では『ミックスドリンク』にカテゴリーされていますが、これはお酒をベースに副材料であるジュース、フルーツ、スパイスなどを混ぜて作るアルコール飲料のことを総じて『カクテル』と呼んでいました。その数はバーテンダー(作り手)の数ほど種類があります」  カクテルの説明をしつつ、シェーカーに炭酸以外のアプリコット・ブランデーに祝福の檸檬ジュース、甘酸っぱい石榴のグレナデシロップと氷を入れてシェークする。  このカクテルにおいてシェークという技法はシロップ、スピリッツやジュースなどの比重の差が大きく混ざりにくい材料を素早く混ぜて、材料を冷やし、空気を含ませることを目的としている。特に空気を含ませることで口当たりを良くして飲みやすくする。  うん、クレアの体だから少し不安だったけれど、感覚は覚えていてよかったわ。
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