6.魔女様と共同生活

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「……魔女様。晩酌よりも何か食べませんか? 私、お腹が減ってしまって」 「あら大変! ささっとリビングに行きましょう♪」  そう促されて部屋に入ると、いい匂いが漂ってきた。てっきり自分が作るのかと思っていたけれど、今日は違うらしい。  リビングのテーブルに様々な料理が並んでいる。しかも出来たてでローストチキンに、瑞々しいサラダ、サーモンのキッシュ、ビーフシチューに、テリーヌなどなどご馳走ばかりだ。 「魔女様。この料理全部、魔法なのですか?」 「そんな訳ないでしょう。……というか、魔法がどういったものだって認識しているのよ?」 「前世での記憶では、物理法則を無視した超常現象を自由自在に操る感じですかね。あとは属性や能力、家系によって使える魔法が制限されるとか?」 「……アナタの世界って、本当に魔法が無かったのよね」 「はい。魔法がないからこそ、魔法への憧れが増して小説やアニメ、ゲームで再現されました」 「人間の貪欲さから生まれる執念の恐ろしさを感じたわ。じゃあ、ヘレナとしての知識で魔法をどのように認識していた?」  ヘレナの記憶。そう言われて頭の中でカチリと音がした気がした。 「ええっと、教会では信仰による奇跡魔法か、精霊や妖精と契約で魔法を行使する。魔女様の場合は自身の中にある魔素(マナ)、あるいは自然の魔素(マナ)を使って魔法を構築して展開させる……で、あっていますか?」 「正解。まあ、私たちも精霊や妖精と交渉や契約で力を借りるけれど、あくまで増幅のためだから複雑な魔法やら術式じゃ無い限りは使わないのよ。じゃあ、この料理はどうやってだしたでしょう?」 「ええっと……転移魔法で用意した?」 「正解。知り合いに料理好きな子がいてね。欲しい時に頼むと届けてくれるのよ。代わりに私が良い酒を贈っているわ」  なんというデリバリーシステム!   この世界で魔法が使いたい放題だと、こんなこともできるね。できたてホカホカの料理はなんとも嬉しい。  席に着くと魔女様はすでに赤ワインを飲みながら、食事を始めていた。ナイフとフォークさばきも美しい。男の人なのだけれど、美人さんなのよね。あー、眼福だわ。  こんな素敵な魔女様と一年の同棲と思いつつ料理を口に運んだ。本当にできたてで、サラダもスープも美味しかった。鶏肉は魔物種の毒袋を除去して作ったらしく、柔らかくて肉汁と旨みが口の中で溶けてとっても美味しい。  思えば誰かと一緒に食事したのは本当に久し振りで、涙が出そうなほど嬉しかった。 「ん~、ハーブが利いていて美味しい」
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