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「……で、ですが、妻の顔色も良いようなので静養なら、我が屋敷でしたほうが精神的にも良いでしょう」
「ヘレナ様、そのようにおっしゃっていますが?」
「まだ体から気怠さが抜けませんので、本日はこちらでお世話になりたいのですがご迷惑でしょうか?」
「その通──はあ!?」
「教会側としては全くもって問題ありません。もともとその予定でスケジュールを組んでおりましたので」
「ありがとうございます」
「お話を聞いていた通りです。お帰りでしたら、お一人でどうぞ」
「──っ」
超笑顔でミハエル様が言い返した。
すごい。口八丁手八丁の夫を笑顔一つで黙らせるなんて……。
「で、では……今日は泊まることを認めますが、少しだけで良いのです。ヘレナと二人だけで話をさせていただけますか?」
ああ、二人きりなら何とかなると本気で思っているのね。いや今世の私でもあれだけのことをされたら百年の恋も冷めるわよ。それにもう言いなりになんかならないわ。
「私は──」
「馬鹿じゃないの? そんなことできるわけないわ」
「毒殺の容疑者と被害者を二人きりにさせることはできません」
黙っていた魔女様とミハエル様が同時に喋った瞬間、夫は目をギョッとさせたが、すぐに口元が緩んだ。
「おや? 面会謝絶といっておきながら部外者しかも異性を病室に入れるとは……教会とはなんとも卑猥な場所なのだろう。こんなこと社交界で広まっては教会としても醜聞が悪い。そう思わないだろうか」
「旦那様……」
何を言い出すかと思ったら、教会と魔女様に喧嘩を売るつもりなの?
教会と魔女協会は共存共栄関係にある。人の営みと精霊を繋ぐ光魔法を中心にした信仰が教会であり、魔女協会は大自然と人外と精霊の調停を行う。
それぞれの領域で組織として二つに分かれているだけに過ぎない。太陽と月のどちらがかけてもいけない存在で、協力関係にあるお二人がここに居るのは、可笑しいことではないわ。むしろ自分自身の無知を曝け出すもの。恥を掻くのは旦那様だわ。それに今回は野良魔女が関わっているのなら、魔女様が出てくるのは自然なことなのに……。
「旦那様、私は野良魔女の毒を飲んだのですよ。解毒のために魔女様がいるのは自然なことです。……それと、旦那様が私に毒をもって殺そうと囁いたこと、私忘れていませんから」
「なっ、ヘレナ!」
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