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祭牙の広げた腕に、浮かんでいた未継の身体がすっぽりと収まる。
「良かった。……戻ってきてくれて」
未継は少し考え、言った。困ったように、笑いながら。
「おー、なんというか……ただいま?」
ハイテンションオジさんによる邪魔が入る前のことを思い出し、未継は赤面した。
目を合わせる。薄い唇が、ひらく。
「さっき、言いかけたことなんだが」
祭牙が、静かに言う。
「狂戦士になった時の、あの暴走。食べるとかはともかく、必死で追いかけている時の焦燥は、本当は、……俺の本心だった」
彼の叫びが、断片的にふと、頭に響いた。
『――逃げないでくれよ』。
彼は彼なりに、不安だったんだな、と、未継はふと思った。
あんなキテレツなアプローチをしていたけど、内心では。
自覚があったことに、けっこう驚く。でも今になって、その理由も飲み込めた。
未継は頬を掻き、目を細める。
今日起こったこと。
とんでもないくらい有り得なくて、ヘンテコな冒険ではあったけれども、
――たがいの背中を押してくれるのには、充分だった。
そんなことを考えて、未継は苦笑する。
まるで、安い恋愛ドラマみたいにメロチックなことを考えてしまう自分が、なんだかちょっと、滑稽だった。
(でも。――そんな自分もべつに、嫌じゃない)
祭牙が、問いかける。
「なあ。――俺の願いに、応えてくれるか。未継には、その気持ちが、あるのか」
それを受け、やわらかく微笑むと、祭牙は眩しそうに目を細めた。
もう、未継の彼に返す言葉は、決まっていた。
「ああ。おれも、言わなきゃいけないな」
もう、逃げないよ。お前から。
相手の背に、しっかりと腕を回す。
鼓動の速さがちょうどおんなじくらいだった。どちらからともなく、笑い出す。
草原に吹く風が、二人の頬を冷ましながら通り過ぎていった。
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